この背景にはいくつかの要因がある。
・企業がAIツールを導入し、これまで新入社員が担っていた事務・分析などの定型業務を自動化している。
・経験の浅い新卒の採用・育成に企業が慎重になっている。
・景気やビジネス環境の不確実性により、採用自体が抑制されている。
新卒者の間では「企業が採用枠を大幅に減らしている」との声も出ており、以前は数十人単位で採っていた企業が、1〜3人程度しか募集しないケースもあると報告されている。
この状況を受け、香港では地元の大学卒業者を優先的に雇用すべきだという議論も強まっている。特に、海外人材や非地元卒業生を受け入れるビザ制度を見直すべきだという意見が労働団体や業界関係者から出ている。
一方、VTCなど職業教育機関の卒業生は、AIによる雇用変化の影響を比較的受けにくいとみられている。
理由の一つは、教育内容の違いだ。VTCのプログラムは次のような特徴を持つ。
・技術や実務スキルを中心とした教育
・特定産業に直結した専門訓練
・インターンシップや実習などの実務経験
こうした人材は、技術職・現場系職種・応用技術分野に多く進む傾向があり、定型的な事務業務よりもAIによる自動化が難しい分野に関わることが多い。
そのため、AIが広がる中でも、技術者や熟練オペレーター、実務型IT人材などへの需要は比較的安定しているとされる。
大学卒向け求人の急減は、より大きな問題も浮き彫りにしている。
従来、エントリーレベル職は新卒者が職場で実務を学ぶ「入口」として機能していた。しかしAIや自動化がこうした業務を置き換えると、若者が経験を積む最初の機会自体が減る可能性がある。
香港政府も、AIが雇用構造に影響を与え始めていることは認めている。一方で、新しい技術は将来的に新しい職種や産業を生み出す可能性もあるとしている。
2026年にVTC会長に就任したジェフリー・ラム(林健鋒)氏は、変化する雇用環境に合わせて教育内容を調整していく方針を示している。
主な取り組みとして挙げているのは次の通りだ。
コース内容の見直し
AIや産業構造の変化に合わせ、将来需要の高い分野に対応するよう教育プログラムを再評価する。
産業界との連携強化
企業ニーズに合ったスキル教育を行うことで、卒業生の即戦力化を図る。
インターンシップ機会の拡大
香港政府が進める大型都市開発プロジェクト**「ノーザン・メトロポリス」**を活用し、学生の実習や就業体験の機会を増やす考えだ。
この計画は、教育と産業をより密接に結びつけ、学生が変化の速い労働市場に適応できるようにする狙いがある。
大学卒と職業教育卒の就職状況の差は、香港の労働市場が大きく変わりつつあることを示している。
AIによって一部のホワイトカラー初級職の需要は減少する一方、現場で役立つ実践的スキルの価値はむしろ高まっている可能性がある。
もしこの流れが続けば、大学教育と職業教育の境界や社会的評価も、今後数年で大きく変わるかもしれない。