欧州が湾岸産LNGだけに依存しているわけではない。ほかのLNG供給国から調達できるほか、再ガス化設備も増えている。欧州委員会は、想定される供給条件のもとで、EUのインフラは追加輸入に対応できるとしている。
問題は、価格とタイミングだ。アジアの買い手が早期の貨物により高い価格を提示すれば、欧州の輸入業者は船を振り向けてもらうために入札価格を引き上げなければならない。
その結果、ガス貯蔵の積み増し費用が増え、欧州が暖房シーズンに入った後もアジアの冷房需要が強ければ、対応の余地が小さくなる。欧州のどの国も直ちにガスへのアクセスを完全に失わなくても、世界全体の市場は一段と引き締まることになる。
ガス貯蔵は、通常の輸入量と冬のピーク需要の間を埋める緩衝材だ。シーズン開始時の在庫が少なければ、寒さが本格化する前に積み増しを急ぐか、冬の最中に新たなLNG輸送により大きく頼る必要がある。
ホルムズ海峡の通航が制限され、アジアの買い手も貨物を奪い合っている状況では、どちらの選択肢も難しくなる。
貯蔵率が低いからといって、直ちに配給制になるわけではない。しかし、寒波、船舶の遅延、パイプライン供給のさらなる減少が起きた場合、十分に備蓄された市場よりも価格への影響が大きくなることを意味する。
欧州では通常、暖かい時期にガスを貯蔵へ注入し、冬に備える。今回の市場情勢をめぐる報道では、熱波による電力需要の増加や、河川水位の低下に伴う原子力発電の減少も、発電用ガスの消費を押し上げる要因として挙げられている。
夏に燃やすガスが増えれば、貯蔵に回せる量は減る。高温が短期的な電力向けガス需要を押し上げる一方、在庫が少ないため、注入できなかった分の影響はより重くなる。
その後、市場が冬への備えを前倒しで始めれば、暖房シーズンが始まる前から追加購入が価格を押し上げる可能性もある。
レバノンに関係する戦闘の再燃は、それ自体が欧州向けガス供給の直接的な喪失を示すものではない。重要なのは、中東全体の緊張拡大や海上輸送の安全に対する懸念を強める点だ。
したがって当面の影響は、欧州に届くガス量の明確な減少というより、供給リスクを価格に織り込む動きになりやすい。ただし、地域紛争が長期化すれば、代替貨物が遅延なく運ばれる、あるいは保険・輸送費の追加負担なしに届くと買い手が想定することは難しくなる。
通航の混乱が長期化すれば、欧州は次の4つの圧力に同時にさらされる。
この組み合わせになれば、オランダTTF価格は現在の水準を大きく上回る可能性がある。政府や送電網の運用者は、暖房需要や発電需要がピークに達する時期に、需要を抑える措置を迫られることも考えられる。
実際に物理的な不足へ発展するかどうかは、混乱の期間、天候、残るパイプライン供給、LNGの迂回輸送、そして高値に対して需要がどの程度反応するかによって決まる。
重要なのは、市場が織り込んでいるのは「欧州全域での供給失敗が確実」という事態ではなく、対応の余裕が縮小しているということだ。
欧州委員会は、冬の期限までに貯蔵率を80%へ引き上げれば供給確保には十分であり、その達成は技術的に可能だとしている。 EUは、冬前の一斉購入によって価格が急騰するのを避けるため、従来の90%目標を80%へ緩和し、達成期限も12月としている。
この見通しは、LNGが利用可能であり、欧州の輸入インフラが継続して稼働するという前提に立つ。欧州委員会の備えに関する分析でも、LNGの供給状況によっては、11月までに貯蔵率を少なくとも80%へ戻せるシナリオが示されている。
しかし、その前提こそがホルムズ海峡の危機によって圧迫されている。船舶輸送が正常化すれば、欧州には在庫を積み増す時間がまだ残されている可能性がある。一方、制限が続き、アジアの需要も強いままであれば、目標達成のコストは上がり、寒い冬に見舞われた場合の影響も深刻になる。
現時点で欧州のガス市場が示しているのは、確定した不足ではなく、脆弱性だ。TTF価格は上昇し、貯蔵率は例年に比べて低く、湾岸産LNGの制約が1週間長引くごとに、欧州は代替貨物、予定どおりの注入、そして穏やかな天候にいっそう依存することになる。