サウジアラビアが、イラク領から発射されたドローンによる攻撃後に東西原油パイプラインを停止したことで、中東の石油供給網の混乱は欧州にとって一段と重大になった。このパイプラインは、サウジの油田地帯から紅海へ原油を運び、ホルムズ海峡を通らずに輸出するための主要ルートだった。停止によって、製油会社やトレーダーは代替カーゴの確保を迫られている。折しも海運は高コスト化し、不確実性も増している。
2
33
35
なぜサウジのパイプライン停止が欧州に響くのか
9月10日の攻撃は、全長1,200キロメートルの東西パイプラインを標的にした。サウジのエネルギー省は被害状況を調べる間、予防措置として稼働を停止した。このルートは、ホルムズ海峡への依存を抑えつつ、原油を紅海の輸出施設へ送る重要な手段だった。
2
13
33
これは、欧州で直ちに燃料が尽きることを意味するわけではない。しかし、必要な原油・燃料をより高く、より不安定な条件で調達しなければならなくなる。
- 欧州向けサウジ原油の一部が削減・取消しに。 ロイターによると、9月積み込み分の一部が欧州顧客向けに取り消され、ヤンブー港での積み込みも停止された。ポーランドのオルレンなどは代替調達を急いだ。
34
- 代替原油の価格が上昇。 欧州の買い手が別の供給源を探すなか、カーゴ価格は1バレル120ドルを超えた。
34
- 運賃高が原油高を増幅。 タンカー運賃は過去最高水準に達し、船舶燃料も不足。原油や石油製品を運ぶコストが押し上げられている。
35
- 地政学リスクそのものが相場を動かす。 停止の報道直後、原油価格は一時1バレル約110ドルまで上昇した。地域紛争がエネルギー設備や海上輸送へさらに波及するとの警戒が背景にある。
3
懸念されるのは、地域の輸出網を構成する複数の接点が同時に圧迫されていることだ。東西パイプラインはホルムズ海峡の迂回路だった。その停止により、残る航路と利用可能なタンカーの戦略的重要性は増す。バブ・エル・マンデブ海峡を含む海上の要衝で不安定化が進めば、遅延と運賃上昇のリスクもさらに高まる。
なぜディーゼルは特に打撃を受けやすいのか
ディーゼル価格は原油価格だけで決まらない。精製能力、中間留分の供給、海運、在庫、配送費用も反映する。そのため原油輸送が滞り、タンカーが不足する局面では、ディーゼルはとりわけ影響を受けやすい。
欧州のディーゼル指標であるガスオイル先物は、取引時間中には4月以来の高値を付け、その後、終値として過去最高を記録したと市場報道は伝えた。分析家は、高い原油価格に加え、中東からのディーゼル・ジェット燃料供給の減少、ロシアの精製・輸出の混乱を含む製品固有の供給不足を要因に挙げている。
41
家計には給油時の負担として表れる。一方、経済全体では道路貨物、農業、建設、産業の配送がディーゼルに大きく依存している。価格上昇が長引けば、燃料そのものが入手できる場合でも、食品、商品の物流、輸送サービスのコストへ波及し得る。
欧州の対応:減税、支援、超過利益課税の議論
欧州各国の政府は、燃料代を下げる即効性のある対策と、広範な補助金による財政負担、さらに供給への価格シグナルをゆがめるリスクとの間でバランスを探っている。
スペイン:エネルギー・燃料を幅広く支援
スペインは、紛争がエネルギー価格に与える影響を抑えるため、50億ユーロ規模の支援策を提案した。議会の承認が必要な措置には、電気料金の付加価値税を10%へ引き下げること、燃料価格を最大で1リットル当たり30セント下げること、農業・運輸部門に1リットル当たり20セントの燃料補助を設けることが含まれる。
19
ドイツ:価格上限ではなく付加価値税の一時引き下げ案
ドイツのカテリーナ・ライヒェ経済相は、消費者の負担軽減のため、燃料の付加価値税を19%から7%へ一時的に下げることが適切だと述べた。一方で、燃料価格の上限設定とエネルギー企業への超過利益税には反対した。
18
この立場は政策上の大きな分かれ目を示す。減税は消費者が支払う価格を下げられる一方、価格上限は卸売価格が上がり続ければ、販売側がコストを回収できなくなるおそれがある。
EUで浮上する超過利益課税
ドイツ、スペイン、ポルトガル、イタリア、ポーランド、オーストリアのEU加盟6か国は、ホルムズ海峡の混乱に伴う石油企業の超過利益に課税する仕組みを協議するよう要請した。これはEU全体で合意された政策ではなく、EUレベルでの協議を求める動きである。
17
賛成派は、この税収を消費者支援の財源に充てられるとみる。反対派は、投資意欲を弱めかねないことや、企業・市場ごとに利益の状況が異なるなかで公平な制度設計が難しいことを指摘する。
フランスとイタリア:強い政治的圧力
ユーロニュースによると、フランスのマクロン大統領は燃料価格への対応を「総動員」するよう指示し、原油供給の確保とドライバーの負担軽減に取り組む方針を示した。イタリアは小・中排気量車にかかる印紙税の廃止を発表した。これは燃料価格への直接介入ではなく、家計コストを広く抑える措置である。
21
政府が避けられないトレードオフ
原油・ディーゼル価格の高騰が続く場合、負担のない政策対応はない。
- 燃料補助金・減税は、家計と企業への当面の打撃を和らげるが、税収減または財政支出の増加を招く。
- 価格上限は政治的には訴求しやすいが、卸売コストの上昇局面では維持が難しく、通常の供給インセンティブを損なう可能性がある。
- 運輸、農業、低所得世帯への直接支援は、一律値引きより対象を絞れる半面、実施に時間がかかり、支援から漏れる消費者も出る。
- 超過利益課税は支援の財源になり得る一方、政治的な対立が大きく、投資への影響も論点となる。
エネルギー企業は、別の原油を調達し、製油所で処理する原油の組み合わせを変更し、輸送経路を振り替えることで、短期的な混乱を緩和できる。ただし、それらの選択肢でも、輸出ルートの寸断や高いタンカー運賃が生む追加コストをなくすことはできない。
34
35
今後の注目点
焦点は、今日、原油が存在するかどうかだけではない。サウジの輸出、地域の航路、タンカーの供給力が、代替カーゴや在庫の余裕がさらに縮小する前に正常化できるかどうかである。
修理が速やかに進み、積み込みが再開されれば、リスク上乗せ分は和らぐ。攻撃の継続、新たな海上輸送の混乱、サウジ原油カーゴの取消し長期化が起きれば、原油、海運、ディーゼルには上昇圧力が残る。欧州にとって当面の問題は、大陸全体で燃料がなくなることが確認されたというより、供給へのアクセスの価格と確実性が悪化している点にある。
2
34
35