今回の分析は、空席となっている職の数を単純に合計して「不足」としたものではありません。UHCの実効カバレッジ指数で80点以上を達成した国々の医療人材密度を比較し、その中で最も低い水準を基準に、各国・各地域に必要な人材を推計しています。
このため、3,440万人はすべての国に一律に適用する人員配置規則ではありません。医療サービスの提供状況と関連づけた、データに基づくベンチマークです。
2023年時点で追加が必要とされた職種別の人数は、次の通りです。
| 職種 | 追加で必要とされる人数 |
|---|---|
| 医師 | 710万人 |
| 看護師・助産師 | 2,390万人 |
| 歯科医師 | 180万人 |
| 薬剤師 | 160万人 |
| 合計 | 3,440万人 |
不足の中心は看護師・助産師で、医師の不足数の3倍を超えます。UHCを進めるには、医師の養成だけに焦点を当てるのではなく、看護、助産、薬学、歯科、プライマリ・ケア、地域保健を含む人材構成全体を整える必要があります。
2019年のデータを用いた以前のGBD分析では、UHC実効カバレッジ指数80点に到達するために、人口1万人あたり少なくとも次の人数が必要と推計されました。
これに対して、新しい分析が示した観測上の基準は、人口1万人あたりおよそ次の水準です。
数字が異なるのは、どちらかが単純に誤っているからではありません。対象となるデータの年、推計手法、比較対象となる国の構成が異なるためです。以前の研究はモデルに基づく最低基準を示したのに対し、新しい分析はUHC指数80点以上の国々で観測された人材密度を基準にしています。
したがって、これらの数値は固定された「世界共通の必要人数」としてではなく、前提の異なる推計結果として読む必要があります。
5職種を合わせた不足数の絶対値が最も大きいのは南アジアで、追加で約1,360万人が必要と推計されています。内訳は、医師約260万人、看護師・助産師約1,000万人、歯科医師約70万人、薬剤師約30万人です。
人口規模が大きいことが、南アジアの不足数を押し上げる主な要因です。ただし課題は人数だけではありません。農村部、貧困地域、医療サービスが届きにくい地域へ、どのように人材を配置し、定着させるかも問われています。
南アジアは人口規模を背景に「不足数の総量」が大きく、サハラ以南アフリカは人口と医療ニーズに対して「利用できる人材の密度」が極めて低い――両者は同じ不足でも性質が異なります。必要な対策は、人口増加、疾病負担、教育能力、職員の定着状況に応じて設計しなければなりません。
3,440万人という数字は、WHOが公表してきたすべての不足推計と直接比較できるものではありません。WHOの推計と今回のGBD分析では、対象年、職種の範囲、「必要」とみなす基準、計画期間が異なるためです。
両者は異なる問いに答えています。したがって、WHOの数字が小さいからといって、GBDの推計が否定されるわけではありません。目標、対象職種、基準年、定義をそろえずに数字だけを比べると、誤解を招きます。
養成と採用の拡大は欠かせません。しかし、賃金が低く、安全性が確保されず、業務負担が過大で、昇進の道も限られている職場に人を増やすだけでは、離職や地域偏在、国外への人材流出を招くおそれがあります。
持続可能な医療人材政策には、次の取り組みを一体で進める必要があります。
今回の分析が示すのは、ひとつの大きな逆説です。世界の医療人材は30年余りで8,000万人以上増え、その拡大を主に女性の労働が支えました。それでも、多くの医療体制は、中程度のUHCに関連する人材能力に届いていません。
不足を埋めるには、採用数を増やすだけでは不十分です。すでに医療を支えている職種の価値を正当に評価し、人材をより公平に配置し、安心して働き続け、意思決定にも関われる制度を築くことが求められています。