Googleは、機能を最大限に活用するには利用可能なデータソースをすべて有効にすることを推奨しています。しかし、これはあくまで製品の性能を優先した推奨であり、各組織が自社のデータガバナンスを評価する代わりにはなりません。
Googleは、企業利用で問題になりやすいデータの扱いについて、次のような境界を示しています。
これらの説明は、企業データが汎用モデルの学習素材として利用されるのではないかという懸念とは区別されるべきものです。一方で、企業のガバナンス上の論点がなくなるわけではありません。Geminiは、ユーザーが個別には閲覧を許可されている情報を組み合わせ、持ち運びやすい簡潔な回答として提示できるためです。
中心となる問いは、「ユーザーがこの情報を開けるか」だけではありません。「AIアシスタントが、この目的のために複数の情報を組み合わせて要約してよいのか」も確認する必要があります。
たとえば、あるユーザーが個別のメール、チャット、カレンダーの予定、文書をすでに閲覧できるとします。Workspace Intelligenceを使えば、それらの断片をまとめて見つけやすくなります。生産性向上につながる一方で、意図しない開示、不適切な二次利用、社内情報の過度な横断検索を招く可能性もあります。
個人情報、医療情報、従業員情報、法務情報、顧客情報、金融情報などを扱う組織は、次の点を検討したうえで、データソースを制限する場合があります。
GDPR、HIPAA、金融業界の規制などの対象となる組織では、これらの論点をプライバシー、法務、セキュリティ、記録管理の担当者が評価する必要があります。Googleによる学習、広告利用、権限管理に関する説明は重要な安全策ですが、それだけで各組織の利用目的、監督、保存、リスク管理に関する要件への適合が決まるわけではありません。
実務上の手順は次のとおりです。
公開されている設定情報では、このWorkspace Intelligenceの設定について、組織、組織部門、グループ単位の制御が案内されています。個々のエンドユーザーが自分だけで切り替える設定ではないため、特定の部門だけに利用を認める場合は、ポリシー設計とグループメンバーの管理が重要になります。
データソースをオフにすると、その情報源をGeminiが自動的に検索することは止められます。しかし、ユーザーが特定の項目を明示的にコンテキストとして追加することまで禁止されるわけではありません。
たとえば、DriveをWorkspace Intelligenceの検索対象から外した場合でも、ユーザーは特定のDriveファイルをGeminiに追加して質問できます。Geminiはそのファイルを参照しますが、回答のためにDrive内の他のファイルを自動検索することはありません。
社内ポリシーでは、「情報源の無効化」と「ユーザーによる個別ファイルの明示的な提供」を別の扱いとして定義する必要があります。前者は自動的な発見範囲を狭める設定であり、後者までブロックする機能ではありません。
多くの企業にとって、選択肢は「すべて有効にする」か「Geminiを全面的に無効にする」かの二択ではありません。段階的に導入すれば、生産性向上の機能を活用しながら、ガバナンス部門が新しい検索・要約の挙動を検証できます。
まずはリスクの低い情報源やユーザーグループから始め、権限と管理設定が意図どおり機能するかを確認します。機密情報や規制対象情報を含むプロンプトもテストし、利用状況の監視方法と会話データの保持期間を確認します。そのうえで、プライバシー、セキュリティ、法務、記録管理の担当者が管理策に合意した範囲で、対象を広げていくのが堅実です。
Workspace Intelligenceは、必要な情報を探してプロンプトに追加する手間を減らし、Geminiをより便利にします。同時に、組織内の情報を発見する仕組みそのものも変えます。管理者が決めるべきなのは、GeminiがWorkspaceデータにアクセスできるかどうかだけではありません。どの情報源を、どのユーザーに対して、どのようなガバナンス条件のもとで積極的に検索させるのか――それが本質的な判断になります。