クリエイターにとって最も革新的な制作機能がミュージックinpaintingです。10秒の間奏を直すためだけに曲全体を作り直す必要はありません。ユーザーはテキストプロンプトを使って、変更したい箇所を選び、そこだけを再生成できます 。
ElevenLabsのドキュメントによると、この機能のワークフローは以下の通りです。まずトラックを生成して保存し、次に新しい「コンポジション・プラン」でそのセクションを参照しながら、弱いと感じるヴァースを再生し直したり、新しいイントロやアウトロを追加して延長したり、保存した複数の曲のセクションを組み合わせることさえできます 。
しかし、ここには大きな注意点があります。ミュージックinpaintingの利用は、現時点ではエンタープライズ(企業)プラン限定であり、利用開始にはElevenLabsのセールスチームへの直接連絡が必要です 。個人クリエイターや小規模チーム向けの編集機能はこれより限定的ですが、全プランのユーザーがMusic v2による音質、ジャンル制御の向上という恩恵を受けられます。
Music v2のクリエイティブな機能性もさることながら、業界関係者が注目する本当の差別化要因は、その法的立ち位置にあります。ElevenLabsがAI音楽市場に参入したのは2025年8月ですが、そのアプローチは当初から根本的に異なっていました 。
音楽プロダクトをローンチする以前に、同社はすでに数千のインディーズレーベルを束ねるMerlin Networkと、メジャーな出版権管理団体であるKobalt Music Groupとのライセンス契約を取り付けていました 。さらに、SourceAudioを通じて1400万曲もの事前に権利処理された楽曲のデータパイプラインを構築
。これらの契約下では、アーティストは自分の楽曲がAIの学習に使われることに自発的に「オプトイン」する必要があります
。つまり、ElevenLabsユーザーは、商用利用における権利の連鎖が明確なトラックを初日から生成できるのです。
この点で、SunoやUdioとのコントラストは如実です。両社は2024年6月、ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ワーナー・ミュージック・グループの委託を受けた**全米レコード協会(RIAA)**から、「著作権で保護された音源を許可なくAI学習に使用した」として提訴されました 。この訴訟の波紋は、競争環境そのものを塗り替えています
。
SunoとUdioは裁判所への提出書類の中で、無許可で著作権のある録音物を学習させていたことを事実上認めています 。両社とも現在、和解とライセンス契約を通じて法的リスクの解消を進めていますが、そのプロセスは現在も進行中です。
ElevenLabsの「事前許諾」アプローチは、ブランド、広告主、デベロッパーなど、AI生成楽曲に紛れもない法的根拠を求める商業ユーザーに明確な優位性をもたらします。CEOのマティ・スタニシェフスキが表現するところの「幅広い商用利用のための法的カバー」を実現するライセンス契約は、まさにその核心です 。この企業向けの安全な立ち位置と、Music v2の新たなクリエイティブ機能の組み合わせこそが、AI音楽市場の行方を見据えたElevenLabsの中心的な賭けなのです。
Comments
0 comments