つまり、原油市場だけの話ではなかった。最初に反応したのは物理的な供給リスクを映しやすい原油だったが、その後、ユーロ圏国債にも波及した。債券市場では、エネルギー高が物価見通しと中央銀行の政策判断を変え得るためだ 。
最もはっきりしたシグナルは原油市場に出た。トランプ氏がイラン側の回答を拒否した後、投資家の間では、紛争が長期化し、ホルムズ海峡を通る船舶輸送のまひ状態が続くとの懸念が強まったと報じられた 。
ブレント原油先物は一時の大幅高からは伸び悩んだものの、約2%高の1バレル103ドル前後で取引されたとされる。背景には、ホルムズ海峡がなお大部分で閉ざされた状態にあるとの見方があった 。別の市場報道でも、米海軍がホルムズ海峡を通じたイラン発着の船舶を阻止する構えを見せ、イラン産原油の輸出が制限される可能性がある中で、ブレント原油が100ドルを上回ったと伝えられた 。
市場の言葉に置き換えれば、今回の拒否は「早期の外交的出口」への期待を弱め、トレーダーの視線を緩和期待ではなく供給途絶リスクへ戻したということだ 。
ユーロ圏の国債利回りも、直近の高水準に向けて小幅に上昇した。米国とイランが戦争終結に向けた合意を確保できなかったことを受け、原油高、インフレ懸念、ECB利上げ観測が利回りを押し上げたと報じられている 。
ドイツ10年国債利回りは1.5ベーシスポイント上昇し、3.06%となった。なお、同利回りは3月下旬に3.13%まで上昇しており、これは2011年6月以来の高水準だった 。
上昇幅だけを見れば大きな動きではない。ただ、方向性が重要だった。危機のニュースであれば通常は安全資産として国債が買われ、利回りが下がる展開もあり得る。しかし今回は、報道上の主因は「安全逃避」ではなく、原油高を通じたインフレ懸念だった。エネルギー価格が上がれば、投資家は将来の物価上昇と中央銀行の政策金利の道筋に敏感になる 。
今回の原油高は、ECBをめぐる見方にも影響した。市場報道は、原油価格の上昇がECB利上げ観測を強めたと明示的に結びつけている 。
ただし、これは直ちに利上げが決まったという意味ではない。ホルムズ海峡の混乱が続き、エネルギー価格が高止まりするなら、市場参加者はより引き締め的な政策経路を織り込みやすくなる、ということだ。以前の報道でも、市場は紛争がインフレ、成長、中央銀行の金利に与える影響を見極めようとしていたとされ、投資家が物価上昇圧力と景気への悪影響の両方を天秤にかけていたことがうかがえる 。
今回のインフレ懸念は、複雑な話ではない。ホルムズ海峡の混乱が原油価格を押し上げ、原油高がエネルギーや輸送コストへの警戒を強めた。引用された市場報道も、ホルムズ海峡の混乱、原油高、ユーロ圏のインフレ懸念を一連の動きとして結びつけている 。
債券投資家にとって、インフレリスクは利回り上昇の理由になり得る。物価圧力が強まれば、中央銀行が利下げしにくくなる、あるいは追加引き締めを検討せざるを得ないとの見方が出るためだ。今回の外交ニュースが市場を動かしたのは、主にエネルギー供給ショックを長引かせる材料と受け止められたからだった 。
今回の反応は、以前の緊張緩和局面とは鏡写しだった。トランプ氏がイランのエネルギーインフラへの軍事行動を延期した際には、ユーロ圏国債利回りが大きく低下し、トレーダーは将来のECB利上げ観測を後退させ、原油価格も下落し、インフレ懸念は和らいだ 。
原油市場でも対照的な動きが出ていた。トランプ氏がイランのエネルギーインフラへの攻撃停止を命じた後、原油先物は当初14%超急落し、その後も約8%安で取引され、ブレント原油は100ドルを下回った 。
この比較から、市場のロジックは明確になる。エネルギーショックのリスクを下げる見出しは、原油安、インフレ懸念の後退、ECB引き締め観測の低下につながりやすい。一方、ホルムズ海峡の混乱を長引かせる見出しは、その逆に働きやすい 。
今後の焦点は、ホルムズ海峡の船舶輸送が正常化するか、そして原油価格が落ち着くかだ。現時点で利用できる報道は、原油、ユーロ圏利回り、ECB観測がすぐに再評価されたことを示している。ただし、それだけでインフレショックが持続すると証明されたわけではない 。
ひとまず今回の要点は、トランプ氏のイラン回答拒否が「エネルギーショック取引」を再点火したことにある。原油が先に上がり、ユーロ圏利回りが続き、ECB利上げ観測が強まり、ホルムズ海峡の混乱が解けない限りインフレ懸念も残る、という流れだった 。