ティム・クック氏のAppleは、劇的な方向転換よりも、既存の強みを長期的に積み上げることで成長してきた。CEO在任15年で、同氏はプレミアム端末のエコシステムを世界規模に拡大し、継続収益を生むサービス事業を育て、オペレーションを競争力そのものに変えた。年商は約1080億ドルから4160億ドルへ、純利益は1120億ドルへ伸びた。CEO交代時点の報道では、Appleの時価総額は4.5兆ドル超とされたが、これは株価によって日々変動する数字である。
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クック氏の変革:製品企業からプラットフォーム企業へ
クック氏はiPhoneという大黒柱を引き継いだが、その周辺にある仕組みをより強固にした。iPhone、Mac、iPadを売るだけでなく、ウェアラブル、クラウド、デジタルコンテンツ、決済、広告、サポート、App Storeまでをつなぐ事業へ広げたのである。Appleの2025年の年次報告書では、サービス部門に広告、AppleCare、クラウドサービス、デジタルコンテンツ、決済が含まれるとしている。
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端末の購入は、顧客との長期的な関係の入口になり得る。2025年度のサービス部門の純売上高は1092億ドルで、前年比14%増。全社の純売上高は4162億ドルだった。
47 これによりAppleは、一度きりのハードウェア販売への依存を相対的に下げた。ただし、収益構造の中心にiPhoneがあることに変わりはない。
ウェアラブルもエコシステムを広げる重要な役割を果たした。Apple WatchやAirPodsは、利用者がAppleのハードウェアとソフトウェアの環境にとどまる理由を増やした。2025年度の「ウェアラブル、ホーム、アクセサリー」部門の売上高は約350億ドルと報じられている。
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オペレーションを競争優位に変えた
オペレーション出身のクック氏は、プレミアム製品を極めて大きな規模で製造・供給する能力をAppleの強みにした。製造は外部パートナーに委託する一方、製品設計、ソフトウェア、自社設計チップ、ブランド、顧客体験の主導権はAppleが握る。
ただし供給網はアジアに集中している。Appleの2025年年次報告書によると、製造と主要サプライヤーの相当部分は中国本土、インド、日本、韓国、台湾、ベトナムにある。
52 この体制は大規模な生産能力と厚いサプライヤー網をもたらした一方、地政学、関税、地域的な混乱を経営上の重大リスクにもした。
そのため近年の方針は「中国からの単純な撤退」ではなく、生産拠点の分散だ。報道では、クック氏が米中関係の緊張によるリスクを抑えるため、インド、ベトナムなどへの展開を進めてきたとされる。
17 Appleにとっての難題は、複数国での代替性を高めながら、品質、生産能力、納期、粗利益率を維持することにある。
クック時代にもあった限界
すべてが成功だったわけではない。Apple Mapsの立ち上げは批判を受け、電気自動車プロジェクトは終了した。Vision Proも大衆市場向けのプラットフォームとして定着したとは言い難い。加えて生成AIでは、Siriの機能刷新の遅れや競合への対応力を疑問視する声が出ている。ロイターは、Vision Proの販売不振とSiri刷新の遅れを受け、投資家からのAIをめぐる圧力の中でターナス氏が就任すると報じた。
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これらはクック氏の財務・オペレーション面の実績を否定するものではない。一方で、慎重な統合と着実な実行はブランドを守る反面、技術転換が製品サイクルより速く進む局面では代償になり得ることも示している。
ジョン・ターナス氏が引き継ぐもの
ジョン・ターナス氏は2026年9月1日にAppleのCEOへ就任し、クック氏はエグゼクティブチェアに移った。Appleが開示した2027年度の報酬体系では、ターナス氏は年俸300万ドルに加え、目標価値5500万ドルの株式報酬を受ける。クック氏は年俸200万ドルと、目標価値4500万ドルの株式報酬となる。
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ただし、重要なのは報酬額よりも経営のバトンが渡される意味だ。ターナス氏は、強固なエコシステム、大規模なオペレーション、1000億ドルを超えるサービス事業を受け継ぐ。次の局面で問われるのは、次のiPhoneサイクルを着実に回せるかだけではない。顧客がAppleのエコシステムに残り、そこでさらに支出する新たな理由を生み出せるかである。
1. AIをApple全体で役に立つものにする
AIはターナス氏にとって当面の最大課題だ。目標は、Siriをより会話的にすることや、単体のチャットボット機能を出すことだけでは足りない。Appleは、自社が重視してきたプライバシーと統合性の基準に沿いながら、OS、アプリ、端末の日常作業を確実に改善する「実用的な知能」を示す必要がある。
判断基準はシンプルだ。AI機能によって、iPhone、Mac、Apple Watch、AirPods、各種サービスが本当に便利になるか。Appleは競合より出遅れたとの批判を受けており、報道でもAI戦略が後継CEOにとって最優先の課題と位置づけられている。
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2. iPhoneの先にある成長の道筋を示す
折りたたみ式iPhoneや製品ラインアップの刷新は既存事業を後押しし得る。しかし、それだけでスマートフォンに続く次の成長プラットフォームを示したことにはならない。報道では、ターナス氏のもとで折りたたみ式iPhoneやスマートディスプレイを含む意欲的な製品群が準備されているとされ、同氏自身も次のiPhoneの先にある製品に言及している。
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より難しいのは、空間コンピューティング、ヘルスケア、ホームデバイス、ウェアラブル、AIを強化したパーソナル機器といった領域を、日常的な価値が明確な製品にできるかだ。Vision Proは、技術的な野心だけでは新カテゴリーが普及しないことを示した。価格、装着性、ソフトウェアの充実、使う必然性がそろって初めて規模を得られる。
3. Apple流を崩さずに生産を分散する
製造の分散は、もはや単なる効率化策ではなく戦略上の必須課題になっている。Appleはインド、ベトナムなどで生産能力を増やす必要がある一方、中国とアジア各地で築いたサプライヤーの専門性と規模も維持しなければならない。
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成功を測る指標は、特定国以外で組み立てられる端末の比率だけではない。供給の継続性、製造歩留まり、製品の供給量、在庫規律、利益率こそが重要になる。ここにこそ、クック氏が残したオペレーションの遺産がターナス氏の支えとなる。
結論
クック氏は、Appleのエコシステムをより粘り強くし、実行力をより大規模にした。スティーブ・ジョブズ氏をまねる必要はなかった。世界規模のプレミアムハードウェア、拡大する利用基盤、年間1090億ドルを超えたサービス事業が、Appleの大きな価値創出を支えた。
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ターナス氏に与えられた仕事は異なる。オペレーションの規律を守りながら、AIを製品の中核に据え、iPhone後の意味ある方向性を示し、より強靭なグローバル供給網を築かなければならない。卓越した運営力はAppleを世界最大級の企業にした。次の時代を決めるのは、それに加えて、次の「なくてはならないコンピューティング体験」を生み出せるかどうかだ。