だが、この日のスパーズは違った。シーズンを通じて培ってきた「バランス」こそが、彼らの最大の武器だった。サンダーが反撃の狼煙を上げるたび、それを迎え撃ったのは特定のエースではない。ある時は俊敏なガードが、ある時は若きフォワードが、そしてまたある時は頼れるベテランが、次々と得点を重ねて突き放した 。
第4クォーター残り2分強でサンダーが6点差まで詰め寄る場面でさえ、スパーズは決して慌てなかった。最後は31-26とクォーターを取り切り、敵地での大一番を完勝で締めくくった 。フランチャイズにとって、敵地での第7戦勝利は2005年のウェスタン・カンファレンス準決勝以来の快挙である
。
ウェンバンヤマが記録した22得点、7リバウンドという数字は、彼の真のインパクトを完全には表していない。この日の彼は、攻守両面において、まさに「引力」の中心だった。オフェンスでは常にダブルチームを引きつけ、味方にオープンなシュートチャンスを創出し続けた 。NBAの年間最優秀守備選手賞(DPOY)に輝いた男は、守備でもゴール下に君臨。第6戦の大勝後に「俺たちはまだ何も成し遂げていない」と語った言葉通り
、勝利への執念を見せつけ、マジック・ジョンソン・トロフィー(ウェスタン・カンファレンス決勝MVP)を受賞した
。
ウェンバンヤマがスパーズの攻撃が公転する「太陽」ならば、ジュリアン・シャンパニーは、その熱を最も効率的に得点へと変換した「灼熱の惑星」だった。彼はこの大一番で20得点を叩き出し、そのうち18点を6本の3ポイントシュートで稼いだ 。
試合の最大の山場は、第4クォーター残り7分を切った場面だった。ウェンバンヤマが5つ目のファウルを宣告されてベンチに下がり、スコアは97-91。嫌な流水になりかねない空気の中、次のオフェンスでボールを受けたのは、他ならぬシャンパニーだった。彼は迷わずアークの外からシュートを放つ。これがネットを通過する6本目の3ポイントとなり、サンダーの追い上げムードと、スタジアムの熱狂的な声援を一瞬にして凍りつかせた 。この一連の活躍は、スパーズの選手層の厚さを証明すると同時に、ウェンバンヤマにディフェンスを集中させるサンダーの戦略に対する痛烈なカウンターとなった。
敗れたサンダーにおいて、リーグ屈指のスーパースターは孤軍奮闘を見せた。ギルジャス=アレクサンダーは、21本中12本のシュートを沈める驚異的な効率でゲームハイの35得点をマークし、9アシストも記録。シリーズ中で「最も自分のリズムを取り戻せた」と語る圧巻のパフォーマンスだった 。
だが、彼を支えるはずの主力たちが、最後まで沈黙したことが何よりの誤算だった。先発のチェット・ホルムグレン、アイザイア・ハルテンシュタイン、ルー・ドルトの3人は、合計13本のシュートを放ちながらわずか5本の成功にとどまり、計14得点。特にホルムグレンの存在感は希薄で、放ったシュートはわずか2本だった 。さらに、シリーズの天王山でキープレイヤーのジェイレン・ウィリアムズを怪我で欠いたことも、チーム全体の攻撃のリズムを狂わせる一因となった
。
試合終了のブザーが鳴り響くと、ビクター・ウェンバンヤマは感情を抑えきれなかった。彼は数度にわたって腰を折り、深く息を吐き出すと、そのままチームメイトのステフォン・キャッスルと熱い抱擁を交わした 。この瞬間に至るまでの重圧と、それを乗り越えた安堵と歓喜が、23歳の巨漢から溢れ出た。
自身のバスケットボールキャリアの原点に思いを馳せたウェンバンヤマは、続けてこう語った。
しかし、その歓喜の言葉の端々からは、彼の底知れぬ競争心が改めて感じられた。頂点まであと4勝。若き指揮官は、感情に浸りすぎることなく、早くも次の戦いを見据えていた。
一方、サンダーのマーク・デイグノルトHCは、無念の敗戦の中でも、チームの未来を見据えていた。
「我々は、辛い経験も含め、あらゆる経験から成長しなければならない。そして、これがNBAだ――辛いことだって起こる」と語り、悔しさを滲ませながらも、胸の内には静かな自信が宿っていた。「我々は、敬意を持って言うが、『倒せない相手はいない』と考えている」
この夜、オクラホマシティで起きたのは、単なる王座の交代劇ではない。徹底した「組織力」が、華やかなタレント集団を打ち破った瞬間であり、長きにわたって受け継がれてきたスパーズのバスケットボール哲学が、新たな世代の手によって結実した歴史的な夜だった。
Comments
0 comments