それでも、この接触は意味を持つ。赤沢氏は今回の訪中で、日本側としては昨年11月の外交対立以降、中国を訪れた最も高位の政府高官だった。したがって、数分の会話であっても、両政府間の最も高いレベルの接触となったからだ。
多国間会議の場では、対立関係にある国同士が正式協議の前段階として非公式に意見を交わすことがよくある。今回のやり取りも、完全な関係改善ではないものの、対話再開の可能性を探るサインとみられている。
日中関係が悪化したきっかけは、高市早苗首相の発言だった。報道によると、高市氏は「仮に中国が台湾を攻撃した場合、日本が対応する可能性がある」との趣旨の発言を行い、中国側が強く反発したという。
台湾問題は中国にとって極めて敏感な主権問題であり、外国政府が軍事対応の可能性に言及すると、外交的な抗議や反発を招くことが多い。
この発言の後、中国は日本に対していくつかの圧力措置を講じたと報じられている。主な内容は次の通りだ。
レアアースは半導体、電気自動車、軍事技術などの製造に欠かせない重要資源で、中国は世界供給の大きな割合を占めている。そのため輸出制限は、経済だけでなく戦略的にも影響力を持つ手段とされている。
今回のAPEC貿易担当相会合には、21の加盟エコノミーの代表が集まり、貿易不均衡やサプライチェーンの強靱化などが議題となった。
外交摩擦が続く中でも、日本政府が閣僚級の代表として赤沢氏を中国開催の会議に派遣した点は注目された。二国間関係は冷え込んでいても、多国間枠組みでは協力の場を維持するという姿勢を示した形だ。
今回の会話が関係改善の突破口になったわけではない。正式な二国間会談は行われず、会話の内容も公表されていない。
それでも外交の世界では、こうした短い接触自体が重要な意味を持つことがある。今回の蘇州でのやり取りは、日中双方が対話のチャンネルを完全には閉ざしていないことを示す出来事だった。
現時点では大きな転換というより、アジア太平洋の二大経済国が関係安定化に向けて慎重に様子を探る「小さな一歩」といえそうだ。