フェイ大統領にとって、この反旗は看過できるものではありませんでした。なぜなら、彼の目の前には緊急の財政問題が立ちはだかっていたからです。政権自らが引き金を引いた2025年の監査で、それまで報告されていなかった130億ドルもの公的債務が新たに発覚し、対GDP比債務比率は、もはや持続不可能とされる132%にまで跳ね上がっていたのです 。IMFはこの報告漏れを受け、即座に融資プログラムを凍結。政府は、ソブリン債務不履行(デフォルト)を回避するために必死の対応を迫られていました
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経済安定化のためにIMFとの協調路線を取るべきだと考えるフェイ陣営は、その最大の障害物を取り除く決断を下します。2026年5月22日、大統領令によりソンコの解任と内閣解散が発表され、この措置は国を「莫大な借金」から脱却させるために必要だと説明されました 。
その穴を埋めるために白羽の矢が立ったのが、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)セネガル支店の元トップであり、経験豊富なエコノミストであるアハマドゥ・アル・アミヌ・ロー氏です 。1961年生まれで、2024年4月から閣僚秘書官を務めていたロー氏は、党の有力者ではなく、あくまで銀行の専門家として知られています。この任命は、意図的に「脱政治化」された人事と言えるでしょう
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この選択には、二重の意図がありました。国営テレビ放送では、その「経済と金融の内部事情に精通する」専門性が称賛され、国内に対して「この危機にはポピュリズムではなく、テクノクラートの管理が必要だ」というメッセージを送っています 。一方で国際社会に対しては、「セネガルは財政規律に真剣であり、たとえ痛みを伴う改革であっても、IMFと現実的な道筋を協議する用意がある」という強いシグナルとなっています
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しかし、フェイ大統領の政争は、それで終わりませんでした。それどころか、政治的なチェスの駒は驚くべき速さで次に進みます。ソンコ氏の側近であるエル・マリック・ンディアイ国会議長が5月24日、突如辞任を表明したのです。これは、解任されたばかりのソンコ前首相が議会に復帰するための露骨な布石でした 。そして迎えた5月26日、国会議員らはソンコ氏の身分を回復させた上で、132票の賛成多数で新議長に選出。PASTEFが過半数を占める議会の実権を、ソンコ氏が掌握した瞬間です
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これにより、現代のセネガルではほとんど例を見ない、政治的なにらみ合いが始まりました。国家の序列第二位となったソンコ議長には、ロー内閣の組閣承認を遅らせたり拒否したりする権限、2026年度予算を妨害する力、そして議会の調査権限を用いてフェイ-ロー政権を徹底的に追及する手段があります。行政と立法が、かつて同じ連立与党だった勢力のライバル派閥によって支配されるという構図は、本格的な憲政危機のリスクをはらんでいます。
政治的駆け引きの裏で、セネガル経済はまさに緊急事態にあります。IMFの推計によれば、2024年末時点でセネガルの公的債務残高はGDPの132%、金額にして約420億ドル(当時のレートで約6.3兆円)に達しています 。これは、監査で巨額の「隠れ債務」が明るみに出た結果、それまでの報告値から大幅に上方修正された数字です
。2026年の債務返済コストだけで5.5兆CFAフラン(約91億ドル)に上ると見込まれており、税収の極めて大きな部分を食いつぶす危険な状況です
。今や多くのエコノミストの間では、G20共通枠組みなどを通じた、何らかの債務再編が不可避だという見方が支配的になっています
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18億ドルのIMF融資プログラムの凍結は、単なる資金の未入金以上の意味を持ちます。この合意がない限り、世界銀行やアフリカ開発銀行、二国間援助国からの追加の財政支援も引き出せません。つまり、流動性危機が差し迫っているのです 。フェイ大統領は2026年5月中旬に自ら交渉の前面に立ったものの、ソンコ氏が内閣を率いてあらゆる譲歩に反対し、政府の統一見解が不在だったことが、交渉を複雑にしてきました
。もし議会がロー氏の政権運営を許せば、彼の任命によって膠着状態が打開される可能性があります。しかし、IMFとの合意には、国民の反発を招くような緊縮財政がほぼ確実に必要となります。
IMFの支援条件に結びつく緊縮策、たとえば公務員の解雇などは、極めて不人気です。早くも2026年4月には、危機に伴う生活費の高騰や雇用削減に反対する労働組合の抗議デモが首都ダカールで発生しています 。カリスマ的なポピュリストであるソンコ氏は、懐疑的な街頭の支持者に対して、緊縮策を「売り込む」か、少なくとも「耐え忍ぶよう説得する」という特異な立場にありました。銀行家や国際金融機関の代弁者と見なされがちなロー新首相には、そのような支持基盤はまったくありません。彼の政権が打ち出す経済政策は、議会からも、街頭からも、激しい反対に直面するでしょう。
ロー新首相にとって、最も危険な最初の一手は内閣を組閣し、ソンコ議長率いる国民議会に提出して、信任投票を受けることです。この投票こそ、新政権の命運を分ける最初の正念場です。もし、前任者の党が多数を占める議会で否決されれば、それは政権の初日からの機能不全を意味し、大統領はソンコ氏との取引を強いられるか、あるいは総選挙の実施に追い込まれる可能性が高いでしょう。
フェイ大統領の政治的計算は明白です。国家の債務不履行を回避する唯一の道はIMFとの合意にある、そして、ソンコ氏のポピュリスト路線は経済的な崖に向かう道だった、という賭けに出たのです。問題は、議会という新たな権力の座から、ソンコ氏がテクノクラート政権の進む道を許すのか、それとも持てる権力を駆使して妨害し、より深刻な制度危機を加速させるのか、という点にかかっています。