これを現実のものとするためには、3つの大きな工学的ハードルを越える必要がありました。
また、サムスンは消費電力の低減とチップサイズの縮小のために新しいビット線(BL)とワード線(WL)の構造を導入したことや、歩留まり向上のためのレーザーを用いたウェハー切断技術を探求していることも報じられています 。
サムスンの900層試作は、長期的な研究開発力を示す強力なメッセージですが、短期的なマスマーケットでのポジションは決して安泰ではありません。NANDフラッシュ市場はDRAMよりも断片化が激しく競争も流動的で、サムスンは複数の面からプレッシャーを受けています 。
SKハイニックスは量産で先行しています。 2025年8月、SKハイニックスは世界で初めて321層の4D NANDチップの量産を開始しました 。サムスンのV9(286層)QLC NANDの本格展開は2026年上半期へと遅延したと伝えられており、その商業化ペースに疑問符がついています
。
二番手グループも急速に差を縮めています。 中国の長江存儲科技(YMTC)は2025年初頭に294層NANDの量産を開始し、300層超の技術を開発中であり、技術格差は縮まりつつあります 。キオクシアやサンディスク(旧ウエスタンデジタル)といった競合も積極投資を進めており、韓国の二大巨人であるサムスンとSKハイニックスがAI向けHBMへと資本を振り向ける中、その戦略的転換はライバルにNAND市場シェア獲得の隙を与える結果となっています
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価格と供給のバランスも微妙です。 NAND大手は2025年下半期に価格を押し上げるために共同で減産し、サムスンは2026年に20~30%の値上げを検討していると伝えられました 。高層化は本質的に製造上のビット単価を引き下げますが、競合他社が供給を増やす中で積極的な値上げを試みることは、絶妙なバランス感覚を要求される綱渡りです
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しかし、そうした逆風下でも、サムスン全体の財務基盤は急拡大しています。直近の四半期では、NANDの売上高が前年同期比で倍増以上の135億1000万ドルに達し、売上高ベースの市場シェアを28%から31.6% に拡大しました 。しかし、そのリードを維持するには、絶え間ない技術開発と商業化の両輪が不可欠です。
より多くのNAND層を積み重ねる競争は、単なる半導体メーカー間のマーケティング合戦ではありません。それは、次世代のAIインフラストラクチャを支える基盤技術だからです。AIデータセンターの爆発的な成長は、より高密度で、より高速、そしてより安価なストレージへの需要を駆り立てています。
莫大なデータセットを支える高密度ストレージ
AIの学習クラスタは、高速で繰り返しアクセスするために、巨大なデータセットをローカルに保存する必要があります。積層数の増加は、同じ物理的なSSDの設置面積により多くの容量を詰め込むことを可能にし、ラックのスペース1ミリメートルが重要なハイパースケールデータセンターには不可欠です 。これはまた、リアルタイムのデータアクセスが必須であるAIデータセンターにおいて、低速なHDDを大容量SSDに置き換える動きを加速させます
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1ビットあたりのコストの劇的な低減
3D NANDの世代が進むごとに、1ビットのデータを保存するコストは直接的に低下します。AIのワークロードがテキスト、画像、音声、動画といったペタバイト級のデータを生成する中、費用対効果の高いストレージは、AIの推論や学習を経済的にスケールさせるために決定的に重要です 。業界は2026年までに2TbのQLCチップの量産を目指しており、このマイルストーンはデータ集約型企業向けSSDのコストをさらに押し下げるでしょう
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新しいAIメモリ・アーキテクチャの実現
おそらく最も重要なのは、NANDフラッシュが、単なる大容量ストレージから、AIのメモリ階層における能動的な構成要素へと変貌を遂げつつある点です。**「HBF(大容量近接メモリ)」のような新しいアーキテクチャは、高性能HBMと低速なSSD大容量ストレージの中間に位置する広帯域のフラッシュ層を提供し、「ウォームデータ」のためにHBMの容量を効果的に拡張するものとして設計されています 。同様に、「インテリジェントAI SSD」**という概念は、ストレージドライブ上に直接演算ユニットを統合し、GPUにデータを送る前にフィルタリングや再フォーマットといったデータ前処理を実行することで、GPUの負荷を軽減しメモリのボトルネックを緩和します
。こうしたアーキテクチャの転換は、400層、900層、そしていずれは1000層以上のNANDフラッシュがもたらす超大容量と低コストなしには実現不可能です。
調査会社Counterpointのリサーチペーパーは、1000層NANDへのスケーリングにおける課題をこう要約しています。すなわち、「AI時代に突入するにあたり、コンピュートとDRAMの成長し続ける性能と見事に合致する、より高密度でありながら欠陥のない3D NANDアーキテクチャを、完璧なパフォーマンスと共に達成する」必要があると 。サムスンの900層試作は、その目標の前半部分、すなわち「不可能なまでに高密度で高性能なストレージ」が手の届くところにあることを示す、具体的なシグナルなのです。
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