これらのアカウントは、カンボジア・バンテアイミアンチェイ州のポイペト市に所在していると特定された。この地域は、ウォール・ストリート・ジャーナル、アムネスティ・インターナショナル、ロイター、AP通信などにより、詐欺拠点や人身売買の温床として繰り返し報じられている。
OpenAIは、同一の協調的なアカウント群が少なくとも4つの異なる詐欺に使われていたことを確認した:
1. 投資詐欺(仮想通貨・金現物) : オペレーターは出会い系のペルソナを使って被害者と信頼関係を築いた後、仮想通貨や金現物への投資話を持ちかけた。ChatGPTを使って偽の株式購入確認書や取引画面を生成し、本物と見せかけた。
2. ロマンス詐欺 : 偽の身分で長期間にわたる恋愛感情的なやりとりを行い、数週間から数ヶ月かけて被害者を経済的に搾取する「豚屠殺(ピッグ・ブッチャリング)」と呼ばれる手法。
3. ギャンブル詐欺 : オンラインカジノの代理人を装い、偽のボーナスや賞金を提示して被害者に入金させ、その後一切返金しない。
4. 警察官装い詐欺 : 警察などの法執行機関を装い、被害者に重大犯罪の罰金を支払うよう要求した。ChatGPTで偽の法的通知書やパスポートなどの公的文書を生成した。
OpenAIの調査結果で最も衝撃的なのは、詐欺を実行していた人々自身が搾取の被害者である可能性が高いという点だ。OpenAIの報告書には、アムネスティ・インターナショナルや国連などが記録する人身売買・強制労働の手口と一致する複数の指標が含まれていた:
強制労働者向けのAI生成求人広告 : ユーザーはポイペトでの「チャッター(会話要員)」職として、航空券、宿泊費、食事、ビザ、労働許可証を保証するソーシャルメディア広告を作成。これは人身売買組織が外国人を詐欺拠点に誘い込むための既知の勧誘手法である。
従業員の債務と強制の記録 : ユーザーは従業員の借金、給与天引き、懲戒罰金、ローン返済を記録したスプレッドシートを管理。社内通信では在留資格、労働許可証、ビザの超過滞在、採用インセンティブについて翻訳された議論が行われていた。
拘束と脱出への言及 : 一部の会話では、明らかな拘束や脱出の試み、詐欺拠点で強制労働を強いられた人々が直面する刑事責任の可能性について言及があった。
広範な報道との一致 : OpenAIは、これらの指標がウォール・ストリート・ジャーナル、アムネスティ・インターナショナル、ロイター、AP通信の報道で繰り返し指摘されている東南アジアの組織犯罪グループの手口と一致すると強調した。
OpenAIは声明で次のように述べている:
「関与した個人一人ひとりの状況を独自に判断することはできませんが、この活動は、詐欺を行う人々自身が搾取の被害者になり得ることを示す警告です。」
OpenAIの対応は主に3つの柱からなる:
アカウント停止とアクセス拒否 : 協調的なChatGPTアカウント群を停止し、再アクセスを困難にする措置を実施。
脅威情報の共有 : WhatsAppから得た情報を基に、調査結果を業界パートナーや関連当局と共有。
公開開示 : 詳細な脅威対策報告書を公表し、他のプラットフォームやセキュリティ研究者、法執行機関が情報を活用できるようにした。
被害総額は不明だが、詐欺師自身の内部通信によれば、この組織は数百人の被害者と接触し、個人で数千ドル(数十万円)の損失を出したケースもあるとされる。
今回の摘発は氷山の一角にすぎない。2024年の国連報告書によると、カンボジアの詐欺拠点には推定10万~15万人(その多くは偽の求人に騙された外国人)が強制的に閉じ込められ、オンライン詐欺を強要されている。アムネスティ・インターナショナルの2025年の報告書は、カンボジア全土の50以上の詐欺拠点を、人身売買・奴隷制・強制労働の現場として記録した。
OpenAIはこれ以前にも関連活動を摘発している。2025年2月、同社はカンボジア発とみられるChatGPTアカウント群を停止。これらはAIを使ってX(旧Twitter)、Facebook、Instagram、LINEといったプラットフォーム上でロマンス詐欺のコメントを翻訳・生成していた。Metaのその後の調査では、この悪意ある活動は「カンボジアに新たに設置された詐欺拠点」から発信されていたと示唆された。
カンボジアの事例は、AI企業が直面する新たな課題を浮き彫りにしている。生産性や創造性を高める言語モデルが、洗練された犯罪ネットワークによって武器化される可能性があるのだ。OpenAIの対応——アカウント停止、情報共有、透明性の確保——は、AIプロバイダーが事後対応型のモデレーションだけに頼らずに戦う方法の一つのモデルを示している。
しかし、この事例はより深い問題も露呈している。アカウント停止だけでは、物理的な組織を解体したり、人身売買の被害者を救出したりすることはできない。ある業界分析が指摘するように、OpenAIが停止したのは「作戦支援レイヤー」であり、詐欺の背後にある物理的な組織ではない。拠点に閉じ込められた人々は依然として脆弱な立場にあり、これらのネットワークを可能にしている構造的な問題に対処するには、政府、法執行機関、市民社会の連携した取り組みが不可欠である。