Lucisの真価は、結果の見せ方にある。通常の健康診断のように「HDLコレステロール 45 mg/dL」と羅列されるだけではない。AIを搭載したコンパニオンアプリが、バイオマーカーデータ、経時的変化、医学的文脈を統合し、栄養、サプリメント、睡眠、運動、生活環境、メンタルヘルスという6領域にわたる個別化アドバイスを生成する。
もちろん、AI任せではない。10名以上の医師とMD/PhDが率いる医療委員会が、ユーザーに届く前にすべての推奨内容をレビューするダブルチェック体制を敷いている。また、オプションで腸内細菌叢(マイクロバイオーム)分析(€150)や、50〜100品目の食物不耐性検査(€300)も追加可能だ
。データ管理はEUのGDPRに完全準拠し、ISO 27001および医療データホスティングのHDS認証も取得済み
。日本の個人情報保護法や医療情報の機密性に敏感な層にも訴求しうる、堅牢なセキュリティ基盤と言える。
Lucisが提供するデータで、もっとも目を引く数字がある。最初の1万人の包括的スクリーニングにおいて、99.9%のユーザーに、少なくとも1つ以上の「至適範囲外」のバイオマーカーが発見されたというのだ。しかも、その大半は本人がまったく自覚していなかった項目だ。
この発見は、Lucisの創業理念を裏付ける強力な証拠となった。すなわち「現代の医療は『病気になってから』が中心であり、定期的かつ解釈可能な血液検査をもっと身近にすることで、慢性疾患の予兆を発症の何年も前に捉えられるはずだ」という仮説である。
わずか約20名のチームながら、パリでのローンチから4カ月で500人、そこから1年足らずで4カ国1万人以上へとユーザーを拡大。累計100万件以上のバイオマーカー検査を提供してきた成長速度も、この潜在需要の大きさを物語っている。
Lucisはしばしば「ヨーロッパ版Function Health」と称される。これは米国で爆発的な人気を博している予防検査プラットフォームで、消費者による健康データへの主体的なアクセス需要の高まりを示している。Lucisは「歯を磨くように定期的な血液検査を日常習慣に」というビジョンを掲げ、難解な検査数値を、追跡・改善可能なパーソナルヘルススコアへと変換する
。
もちろん、Lucisは医療診断を下すわけでも、医師を代替するわけでもないと明言している。しかし、健康診断の「結果を見て終わり」から「結果を行動に変える」へのパラダイムシフトを、データとテクノロジーの力で欧州に根づかせようとしている試みは、超高齢社会で予防医療の重要性が叫ばれる日本市場にとっても、遠い未来の話ではないはずだ。