もっとも、9月の利下げ観測だけで、すべての通貨が同じように上昇したと見るべきではありません。為替相場は各国の経済指標、投資家のリスク選好、ポジション調整、各中央銀行の政策見通しなどにも左右されます。ただ、今回の値動きに共通していたのは、ドルが持つ将来の金利面での優位性を市場が見直したことでした。
この金利差は、比較的低金利の円で資金を調達し、より利回りの高いドル資産を保有する「円キャリー取引」を支えてきました。しかし、FRBが利下げに向かい、日銀が金融引き締めを進めると予想されれば、金利差は両方向から縮小します。
ドルを保有するメリットが小さくなれば、投資家は円を買い戻し、ドルを売る動きを強める可能性があります。これが、USD/JPYを押し下げる要因になります。
ここで、ドル円の表示方向には注意が必要です。USD/JPYが高い水準から158.86円へ下落した場合、1ドルで買える円が減ったことを意味し、円はドルに対して上昇しています。「ドル円の下落」は円安ではなく、円高を示します。
Trading Economicsも、8月21日のUSD/JPYを158.8600円とし、円は過去1カ月で2.63%上昇したとしています。ただし、より長い期間で見ると円は依然として弱い状態にあります。
円相場は、円安が進みやすい水準にあり、日本政府による為替介入の可能性も引き続き意識されています。介入が必ず実施されるわけではありませんが、介入警戒があるだけでも、投資家はUSD/JPYをさらに押し上げることに慎重になりやすくなります。
米国債利回りの低下と介入観測が重なれば、USD/JPYの下落が加速する可能性もあります。
バンク・オブ・アメリカは、年末の円相場を1ドル=149円とするシナリオを示しました。現在の約158円から円高が進むとの見通しで、協調的な為替介入や日銀の利上げ観測を前提とした銀行独自の予測です。市場全体の確定的な見方や、コンセンサス目標ではありません。
今後の焦点は、市場が織り込み始めた「日米金利差の縮小」が、実際の経済指標と中央銀行の発言によって裏付けられるかどうかです。
ドルの下落が一方向に続くとは限りません。FRBが利下げに動かず、日銀も追加利上げを先送りすれば、日米金利差は大きく残ります。その場合、円高の勢いは抑えられ、USD/JPYが150円台後半から160円台前半で推移する可能性があります。
ナショナル・バンク・オブ・カナダは、USD/JPYの当面の想定レンジをおよそ156~161円とし、米国債利回りが低下する場合、または日銀がより積極的な姿勢を示す場合に、円高方向へリスクが傾くとしました。
この見通しが示すのは、現在の政策金利そのものと同じくらい、政策がこれからどちらへ動くのかという期待が重要だという点です。
8月のドル安は、FRBの7月会合の結果に対する単純な反応ではありませんでした。政策金利は3.50~3.75%で据え置かれたものの、市場が将来的な利下げを意識し始めたことで、ドルの期待利回りが低下。ユーロ、ポンド、ニュージーランドドルが買われました。
円にはさらに、日銀の追加利上げ観測と為替介入への警戒が加わりました。USD/JPYにとっての決定的な焦点は、9月に市場が織り込み始めた組み合わせ――FRBのハト派化と、日銀のより積極的な引き締め――が実現するかどうかです。