原因は単純明快です。原子炉の冷却に使う河川の水温が、フランスの環境規制で定められた上限に達したためです。排出水の温度が許容値を超えると、発電所は出力を絞るか、完全に停止しなければなりません。夏の間中、この現象は繰り返し発生し、7月16日には4.9GW、7月13日には8基の原子炉で6.3GWもの出力が制限されました。ガロンヌ川沿いのゴルフェッシュ2号機、ローヌ川沿いのビュジェ3号機、サン=タルバン原子炉などが特に影響を受けました。さらに、8月中旬にはクラゲの大発生がブレイエ原子力発電所の冷却取水口を塞ぐというハプニングも重なり、一時的に原発能力の20%以上が停止しました。
EDF自身は、この気象現象による年間発電量への影響は、6月で1TWh、7月で2TWhと控えめに見積もっています。しかし、ピーク時に失われた発電能力と、そのタイミングこそが、市場価格を押し上げ、系統運用を圧迫したのです。
熱波の影響はフランスだけに留まりませんでした。フランスの原発供給が細り、同時にドイツでの風力発電が弱まったため、欧州のスポット電力価格は20%以上跳ね上がり、フランスの前日価格は夏の高値を記録しました。フランスは通常、近隣諸国に大量の電力を輸出していますが、自国の出力が制限されたことで輸出量が激減し、西ヨーロッパ全体の価格上昇圧力となりました。
東方では、異なるものの同様に深刻な問題が発生していました。ルーマニアとハンガリーの原発に冷却水を供給するドナウ川が、記録的な低水位に陥ったのです。ルーマニアでは川の流量が毎秒1,500立方メートルを下回り、7月の通常流量の3分の1未満となりました。国営のヌクレアレレクトリカ社は、チェルナヴォダ原発の両原子炉を停止せざるを得ませんでした。低水位が原因で完全停止に追い込まれたのはこれが初めてです。ルーマニアは国家非常事態を宣言し、同原発の責任者は10日以内の再開は見込めないと述べました。
隣国ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ原子力発電所(国内電力の約半分を供給)の出力が大幅に低下しました。ドナウ川の水位低下により、冷却用の取水ノズルが川の水に届かなくなったのです。8月初旬には出力が容量の10%強にまで落ち込み、ハンガリーの首相は、同原発の44年の歴史で初となる全面停止が差し迫っていると警告しました。ハンガリーは辛うじて全面停止は回避したものの、数週間にわたり深刻な出力低下状態で運転を続けました。
ルーマニアは、最後の1基の原子炉を動かし続けるため、緊急措置として岩盤を爆破して水路を変更し、冷却水を確保するための堤防を建設するという前代未聞の措置をとりました。これらの対策で数日間の運転延命は図れましたが、最終的な停止を防ぐことはできませんでした。
危機の中にあって、太陽光発電は歴史的なパフォーマンスを見せました。エネルギーシンクタンクのEmberによると、2026年6月、太陽光発電はEUの電力の25%(52TWh)を供給し、単月で初めて原子力(21%)、ガス(15%)、風力(14%)、水力(12%)、石炭(8%)を上回ったのです 。7月の太陽光発電量は55TWhに達し、記録的なシェアを維持しました。
熱波そのものがこの結果に貢献しました。高い日射量がパネルの出力を押し上げる一方、猛暑によるエアコン需要の急増により、ピーク負荷を賄う上で太陽光の昼間の貢献は極めて重要なものとなったのです。
しかし、この太陽光ブームには、おなじみの構造的問題が付きまといます。日没後に供給が急減するという「ダックカーブ」問題です。従来は、この時間帯を原子力のようなベースロード電源がカバーしてきました。しかし、熱波で原子力が停止していたため、その受け皿が失われました。このことは、大量の太陽光発電を導入する際に、その変動性を吸収するための大規模な蓄電池システムが不可欠であることを、改めて浮き彫りにしました。
2026年の夏は、欧州のエネルギーシステムにとって、これまでにない実戦的なストレステストとなりました。異常気象が、原子力(冷却水)、水力(少雨)、そしてガス(地中海の冷却水制限)といった、ほぼすべての主要な低炭素電源を同時に襲ったのです。
この「相関リスク」は、エネルギー転換の計画において見過ごされがちな盲点です。一つの気象現象が複数の電源に同時に悪影響を及ぼす可能性を、今回の経験は如実に示しました。フランス、ルーマニア、ハンガリーで起きたことは、気候変動が進む中で、いかにエネルギー安全保障の考え方そのものを見直さなければならないかを、欧州全体に突きつけたといえるでしょう。
EDFは7月31日、2026年の年間EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)が、熱波による原子力と水力の発電減、そして電力市場価格の下落により、前年比で約10%減少する見通しであると発表しました。同社のCEOは、一連の熱波が「異例の連続」であり、財務目標に影響を与えたと述べています。
今回の経験は、脱炭素化への道のりが一直線ではないことを示しています。太陽光の記録的な成長は歓迎すべきですが、安定した電力供給を維持するためには、異なる特性を持つ電源のバランス、そして何より、異常気象に対する強靭性(レジリエンス)を組み込んだシステム設計が不可欠なのです。
原因は単純明快です。原子炉の冷却に使う河川の水温が、フランスの環境規制で定められた上限に達したためです。排出水の温度が許容値を超えると、発電所は出力を絞るか、完全に停止しなければなりません。夏の間中、この現象は繰り返し発生し、7月16日には4.9GW、7月13日には8基の原子炉で6.3GWもの出力が制限されました。ガロンヌ川沿いのゴルフェッシュ2号機、ローヌ川沿いのビュジェ3号機、サン=タルバン原子炉などが特に影響を受けました。さらに、8月中旬にはクラゲの大発生がブレイエ原子力発電所の冷却取水口を塞ぐというハプニングも重なり、一時的に原発能力の20%以上が停止しました。
EDF自身は、この気象現象による年間発電量への影響は、6月で1TWh、7月で2TWhと控えめに見積もっています。しかし、ピーク時に失われた発電能力と、そのタイミングこそが、市場価格を押し上げ、系統運用を圧迫したのです。
熱波の影響はフランスだけに留まりませんでした。フランスの原発供給が細り、同時にドイツでの風力発電が弱まったため、欧州のスポット電力価格は20%以上跳ね上がり、フランスの前日価格は夏の高値を記録しました。フランスは通常、近隣諸国に大量の電力を輸出していますが、自国の出力が制限されたことで輸出量が激減し、西ヨーロッパ全体の価格上昇圧力となりました。
東方では、異なるものの同様に深刻な問題が発生していました。ルーマニアとハンガリーの原発に冷却水を供給するドナウ川が、記録的な低水位に陥ったのです。ルーマニアでは川の流量が毎秒1,500立方メートルを下回り、7月の通常流量の3分の1未満となりました。国営のヌクレアレレクトリカ社は、チェルナヴォダ原発の両原子炉を停止せざるを得ませんでした。低水位が原因で完全停止に追い込まれたのはこれが初めてです。ルーマニアは国家非常事態を宣言し、同原発の責任者は10日以内の再開は見込めないと述べました。
隣国ハンガリーでは、旧ソ連時代に建設されたパクシュ原子力発電所(国内電力の約半分を供給)の出力が大幅に低下しました。ドナウ川の水位低下により、冷却用の取水ノズルが川の水に届かなくなったのです。8月初旬には出力が容量の10%強にまで落ち込み、ハンガリーの首相は、同原発の44年の歴史で初となる全面停止が差し迫っていると警告しました。ハンガリーは辛うじて全面停止は回避したものの、数週間にわたり深刻な出力低下状態で運転を続けました。
ルーマニアは、最後の1基の原子炉を動かし続けるため、緊急措置として岩盤を爆破して水路を変更し、冷却水を確保するための堤防を建設するという前代未聞の措置をとりました。これらの対策で数日間の運転延命は図れましたが、最終的な停止を防ぐことはできませんでした。
危機の中にあって、太陽光発電は歴史的なパフォーマンスを見せました。エネルギーシンクタンクのEmberによると、2026年6月、太陽光発電はEUの電力の25%(52TWh)を供給し、単月で初めて原子力(21%)、ガス(15%)、風力(14%)、水力(12%)、石炭(8%)を上回ったのです 。7月の太陽光発電量は55TWhに達し、記録的なシェアを維持しました。
熱波そのものがこの結果に貢献しました。高い日射量がパネルの出力を押し上げる一方、猛暑によるエアコン需要の急増により、ピーク負荷を賄う上で太陽光の昼間の貢献は極めて重要なものとなったのです。
しかし、この太陽光ブームには、おなじみの構造的問題が付きまといます。日没後に供給が急減するという「ダックカーブ」問題です。従来は、この時間帯を原子力のようなベースロード電源がカバーしてきました。しかし、熱波で原子力が停止していたため、その受け皿が失われました。このことは、大量の太陽光発電を導入する際に、その変動性を吸収するための大規模な蓄電池システムが不可欠であることを、改めて浮き彫りにしました。
2026年の夏は、欧州のエネルギーシステムにとって、これまでにない実戦的なストレステストとなりました。異常気象が、原子力(冷却水)、水力(少雨)、そしてガス(地中海の冷却水制限)といった、ほぼすべての主要な低炭素電源を同時に襲ったのです。
この「相関リスク」は、エネルギー転換の計画において見過ごされがちな盲点です。一つの気象現象が複数の電源に同時に悪影響を及ぼす可能性を、今回の経験は如実に示しました。フランス、ルーマニア、ハンガリーで起きたことは、気候変動が進む中で、いかにエネルギー安全保障の考え方そのものを見直さなければならないかを、欧州全体に突きつけたといえるでしょう。
EDFは7月31日、2026年の年間EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)が、熱波による原子力と水力の発電減、そして電力市場価格の下落により、前年比で約10%減少する見通しであると発表しました。同社のCEOは、一連の熱波が「異例の連続」であり、財務目標に影響を与えたと述べています。
今回の経験は、脱炭素化への道のりが一直線ではないことを示しています。太陽光の記録的な成長は歓迎すべきですが、安定した電力供給を維持するためには、異なる特性を持つ電源のバランス、そして何より、異常気象に対する強靭性(レジリエンス)を組み込んだシステム設計が不可欠なのです。