レーン氏も、原油価格が以前の予測前提を上回っており、高止まりが続けば世界経済への影響が広がる可能性があると警告していた。 ドイツ連邦銀行のヨアヒム・ナーゲル総裁が、エネルギーショックは依然として「経済の中に残っている」と述べたのも、スポット価格だけでは測れない波及効果を指している。
ECBは6月、エネルギー高によるインフレが長期化するのを防ぐため、預金ファシリティ金利を0.25ポイント引き上げ、2.25%とした。 レーン氏は今回のショックを「中規模」と位置づけ、政策対応は必要だが、必ずしも急激な金融引き締めが必要な局面ではないとの認識を示している。
利上げによって原油を増産したり、航路を再開させたりすることはできない。それでも、需要を抑え、ECBが中期的にインフレ率を2%へ戻す意思を示すことはできる。労働者や企業が高インフレの長期化を予想し、賃金や販売価格を引き上げ始めれば、当初は一時的だったエネルギーショックが国内物価に定着するおそれがあるからだ。
一方、ECBは7月の会合で金利を据え置き、今後の判断はあらかじめ決めた道筋ではなく、経済指標次第になることを示した。 エネルギー価格が高止まりし、物価上昇がより広範囲に波及すれば追加利上げの可能性は残る。ただし、市場が利上げを織り込んでいることと、ECBが実際に利上げを決定することは別である。
追加利上げに慎重になる理由は、企業部門のデータにも表れている。EUでは2026年第2四半期、企業登録件数が前期比0.5%減少する一方、倒産件数は5.7%増加した。8業種のうち5業種で企業登録が減り、倒産は教育・社会活動、運輸、金融サービスなどで特に増えた。
この数字だけで、ECBの金融政策が倒産を引き起こしたとは言えない。需要の弱さ、運営コストの上昇、コロナ禍の支援策終了、業種ごとの問題など、複数の要因が関係しているためだ。ただ、ECB自身もユーロ圏の企業倒産がコロナ前の水準を上回り、複数の業種に広がっていると報告している。
政策金利が上がれば、新規借入だけでなく、満期を迎える債務の借り換えコストも上昇する。利益率が低い企業、債務が大きい企業、近く大量の借り換えを迫られる企業ほど、影響を受けやすい。
ECBの選択肢には、どちらにも明確なリスクがある。
最終的な振れ幅を決めるのは、地政学だ。危機が早期かつ持続的に解決し、エネルギー供給が回復して原油価格が下がれば、追加利上げの必要性は弱まるだろう。ただし、企業の契約や供給網にすでに織り込まれた値上げが、すぐに元へ戻るわけではない。
反対に、混乱が長期化または再燃すれば、レーン氏の「3%前後」という見通しは現実味を増し、ECBへの利上げ圧力は強まる。
つまりECBは、インフレと企業の資金繰り悪化のどちらか一方だけを選んでいるのではない。将来のインフレ定着を防ぐために、現在どこまで金融面の痛みを受け入れるのかを判断している。その答えは、今後の物価指標だけでなく、中東情勢とエネルギー市場の展開によって大きく変わり得る。