原油が1バレル=100ドルを超えたことが市場に重く受け止められたのは、通常の商品高ではなく、供給・輸送の持続的な障害として意識されたためです。ホルムズ海峡を通航中の船舶への攻撃に加え、サウジアラビアの東西パイプラインがドローン攻撃後に停止。すでに需給が引き締まるなか、供給不安が長引く可能性が意識されました。
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市場はこれを、インフレ期待を押し上げる一方で家計の実質所得や企業利益を圧迫する、典型的なスタグフレーション型の再評価とみました。結果として、リスク資産である株式だけでなく、通常なら逃避先になりやすい国債も売られ得る局面となります。
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直接のきっかけは「高値」ではなく供給経路のリスク
ロイターによると、英国海事貿易オペレーションズ(UKMTO)は、ホルムズ海峡で航行中の船舶が飛翔体の攻撃を受け、火災と乗組員の避難が発生したと報告しました。同時に、ドローン攻撃を受けたサウジの東西パイプラインも停止しました。
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このパイプラインは、ペルシャ湾岸から紅海へ原油を運ぶ経路で、ホルムズ海峡への依存を減らすための重要な代替ルートです。停止は単純な設備トラブル以上に、海峡リスクを回避する選択肢そのものが弱まることを意味します。被害の全容と復旧時期はなお明らかでないとされ、この不確実性自体が原油のリスクプレミアムを押し上げます。
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サウジのインフラと中東の船舶を巡る新たな攻撃で供給懸念が高まり、ブレント原油先物は1バレル=105.68ドル、米国産WTI先物は101.39ドルで取引を終えました。
22 米エネルギー情報局(EIA)も、中東からの供給減で世界の在庫が低下しているとして、原油価格見通しを引き上げています。
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原油ショックが株安・債券安へ波及する仕組み
原油高は、エネルギー市場だけにとどまりません。市場ではおおむね次の経路で波及します。
- 燃料・エネルギーコストが幅広く上昇する。 輸送、製造、石油化学、家庭の光熱費などの負担が増える。
- 実質的な成長見通しが悪化する。 家計の購買力が低下し、企業は原材料高による利益率の圧迫に直面する。
- インフレの長期化懸念が強まる。 エネルギー高が一時的でなく、幅広い物価上昇に波及すると見込まれれば、投資家は長期の名目国債を保有するためにより高い利回りを求める。
- 債券利回りの上昇が株価バリュエーションを圧迫する。 金利は将来利益を現在価値に割り引く際の割引率でもあるため、利回り上昇はとりわけ将来の成長期待に依存する株式の評価を下げやすい。
このため、株式と債券が同時に下落することがあります。株安時の「安全資産」とされる国債も、中心的な懸念が景気後退ではなくインフレと金融政策の引き締めにある場合、売りの対象になり得ます。
実際、ガーディアンによれば、原油高とインフレ懸念を背景とした債券売りのなか、米10年国債利回りは5%に達しました。
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野村がいう「energy/petrochem shock 2.0」とは
野村のクロスアセット戦略家、チャーリー・マケリゴット氏は、状況を「energy/petrochem shock 2.0(エネルギー・石油化学ショック2.0)」と表現し、原油不足が一段と深刻化しつつあると警戒しました。
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ここでいう「terminal」は、必ず市場や経済が崩壊するという断定ではありません。原油の供給だけでなく、海上輸送、精製品、工業用投入材、インフレに敏感な金利市場までが同時に影響を受けると、ショックを吸収しにくい市場構造になる、という警告です。
東西パイプラインはホルムズ海峡の主要な代替ルートであるだけに、その停止が懸念を深めました。復旧までの期間が見えない間は、供給量だけでなく物流能力も価格に織り込まなければならず、市場の変動は大きくなりやすくなります。
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中央銀行が直面する難題
中央銀行は利上げなどで需要を抑え、インフレ期待の高まりを防ぐことはできます。しかし、利上げによって損傷したインフラを直したり、海上交通の安全を確保したり、短期間で原油の物理的供給を増やしたりすることはできません。
そのため、選択は難しくなります。
- 金融引き締めを進める場合: 二次的な物価上昇を抑える効果が期待される一方、景気減速をさらに深めるおそれがある。
- 引き締めを抑制する場合: 景気への圧力は和らぐ可能性がある一方、供給ショックが長引けばインフレ期待が定着するリスクがある。
投資家が評価し直しているのは、エネルギーの直接コストだけではありません。政策金利、長期債に上乗せされる期間プレミアム、企業の資金調達コストがどこまで上がるのかが、資産価格全体を左右します。
分散投資が効きにくくなる局面
インフレ鈍化を伴う景気懸念では、国債が株式の下落を補うことが多くあります。しかし、供給制約に起因するインフレショックでは、この関係が崩れます。
インフレ、金利、商品価格の変動、景気懸念が同時に強まると、株式、長期債、クレジットに偏ったポートフォリオは、同じマクロ再評価の影響を受けます。相対的な恩恵を受ける可能性があるのはエネルギー生産企業、米ドル、明示的なボラティリティヘッジなどですが、実際の結果は供給障害の期間と金融政策への見方に大きく左右されます。
売りを止め得る要因は何か
相場反転には、次のような変化が考えられます。
- 供給と輸送の正常化: ホルムズ海峡の通航環境が持続的に改善する、あるいはパイプライン能力が回復すれば、原油に上乗せされた地政学的リスクプレミアムは低下し得る。
- 原油価格の反落: エネルギー価格が下がれば、目先のインフレ懸念と長期金利への上昇圧力は和らぐ。
- 需要減速による相殺: 金融環境の引き締まりが実体経済を大きく冷やせば、市場の焦点がインフレから成長減速へ移り、国債の支援材料になる可能性がある。
ただし、いずれも確実ではありません。市場が見極めようとしているのは、今回の混乱が一時的な相対価格の上昇にとどまるのか、それとも基調的なインフレと金利見通しまで変えるのか、という点です。
確認された事実と未検証の地政学的主張は分けて考える
ホルムズ海峡周辺の船舶への攻撃、サウジ東西パイプラインの一時停止、そして原油価格の上昇は、主要報道で確認されています。
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一方、中国の在庫積み増しがイランと協調したものだという主張や、両国が混乱の長期化を意図しているという見方、米国のエネルギー輸出規制が差し迫っているという話は、現時点の証拠では確認済みの事実ではありません。これらは主張、またはテールリスクのシナリオとして扱うべきであり、確認された物理的な供給・輸送障害とは区別する必要があります。
要点:原油が引き金、焦点はインフレと金利の価格付け
今回の売りは原油そのものだけをめぐるものではなく、金融システム全体でのインフレリスクと金利リスクの再評価です。中東からの供給制約、脆弱な海上輸送、サウジの迂回輸送能力の復旧遅延というリスクが続く限り、原油が長期金利を動かす主要変数となり、金利がリスク資産を左右する展開は続き得ます。
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