結論:巨額の「買い」はETFの設定に伴う資産移動
2026年8月下旬、ブラックロックの暗号資産関連ウォレットが、8取引日連続でビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)を買い集めたと報じられた。取得量は27,722BTCと385,633ETHで、合計約31億ドル相当。数字だけを見ると、ブラックロックが企業資金を暗号資産に振り向けたようにも映る。
1
5
しかし、実態に近いのはETFへの資金流入を受けたファンド設定とカストディ業務に伴う移動だ。対象となったのは、iShares Bitcoin Trust(IBIT)とiShares Ethereum Trust ETF(ETHA)。投資家がこれらのETFを購入すると、運用会社や指定参加者(authorized participants)がETFの新規口数を設定し、それに見合う現物のBTCやETHを取得・受け入れる。Coinbase Primeは、こうした機関投資家向けの売買・保管業務を担う経路の一つだ。
7
9
つまり今回のデータが示すのは、ブラックロック本体による独自のバランスシート投資というより、投資家が規制されたETFを通じてBTCとETHへのエクスポージャーを増やしたことだ。
8日間の取得額は約31億ドル
報じられた8日間の積み増しは、次の通りだ。
- 27,722BTC:当時の報道で約20億〜22億ドル
- 385,633ETH:約9億6,100万ドル
- 合計:約31億ドル超(約31.61億ドルとの報道もある)
1
5
暗号資産の価格は日々変動するため、ドル換算額は報道時点によって異なる。また、別の報道ではBTCの数量を22,722BTCとしており、27,722BTCという数字は、現時点で最も広く引用された報告値として扱うのが安全だ。
5
8
単純平均すると、8日間で1日あたり約3,465BTCが追加された計算になる。これは、1日あたり約450BTCとされる新規発行量を大きく上回る。ただし、ETFが取得するBTCは新規発行分だけでなく、既存保有者や取引所の流動性からも供給されるため、この比較は需給の方向性を示すものにとどまる。
最大の山場は8月21日前後の約48時間
取引は8日間に均等に分散していたわけではない。8月21日前後の約48時間には、関連ウォレットが11,098BTCと132,769ETHを追加したとされ、その価値は当時約10億ドルに達した。
4
7
この移動は、IBITとETHAの新規設定を支えるためのETF運用上の取引と説明されている。したがって、ブラックロックが短期間に自社判断で一方向のポジションを構築したことを直接示すものではない。
この時期は暗号資産市場全体のセンチメントも改善していた。報道時点では、ビットコインが1週間で20%超、イーサが約29%上昇していた。
49
51価格上昇は新たなETF購入を呼び込みやすい一方、すでに保有している資産のドル評価額も押し上げる。
ETFの資金流入がウォレットの動きを説明する
オンチェーン上の資産移動とETFの資金フローを合わせて見ると、今回の動きはより明確になる。
IBITには、8月27日までの9取引日連続のプラスフロー期間に、約23億ドルが流入したと報じられた。ETHAにも同じ期間に約10.2億ドルが流入した。
米国の現物ビットコインETFと現物イーサETF全体では、8月17〜21日の5取引日だけで合計約26.15億ドルの純流入を記録した。内訳は、ビットコインETFが約19.17億ドル、イーサETFが約6億9,750万ドルだった。
23
24
ブラックロックの商品は、その中でも大きな資金を集めた。8月24日には、IBITが現物ビットコインETF全体への流入3億3,760万ドルのうち2億900万ドルを獲得し、約62%を占めた。ETHAも現物イーサETFへの流入1億1,600万ドルのうち9,092万ドル、約78%を取り込んだ。
22
25
この数字から読み取れるのは、機関投資家や大口投資家が、暗号資産を直接保管するのではなく、流動性と規制上の扱いやすさを備えたETFを通じて再び市場に入ってきたということだ。ブラックロックの商品は、その主要な受け皿となった。
保有額の28.3%増は「新規資金15.11 billionドル」ではない
ブロックチェーン分析データを基にした報道では、IBITとETHAを合わせた保有額は、8月初めの533.6億ドルから月後半には684.8億ドルへ増加した。増加額は約151.1億ドル、率にして28.3%だ。
2
38
内訳として、IBITは476.9億ドルから約603.5億ドルへ、ETHAは56.7億ドルから約81.2億ドルへ増えたと報じられている。
2
38
ただし、この151.1億ドルがそのまま新たに流入した現金を意味するわけではない。少なくとも次の2つの要因が含まれる。
- ETFの新規設定:投資家の購入に対応して、ファンドが追加のBTCやETHを取得する。
- 保有資産の値上がり:ファンドがすでに保有していたBTCやETHのドル換算額が上昇する。
同時期、ビットコインは数日間で20%超、イーサは1週間で約29%上昇しており、運用資産残高の増加には価格要因も相当程度寄与した。
49
51一方、8月全体のビットコイン21%上昇、イーサ27%上昇という数字を使って、増加額のうち何%が価格要因だったかを独立に確定できる証拠は示されていない。
機関投資家の需要について分かること
今回の急増からは、主に3つの点が読み取れる。
1. 規制されたETFが需要回復の主要な窓口になった
投資家は、暗号資産取引所で直接コインを保有したり、秘密鍵やカストディを自ら管理したりする必要がない。IBITとETHAへの流入は、規制されたファンドの形が、相場反発局面でBTC・ETHへのアクセス手段として強く機能したことを示している。
ビットコインETFとイーサETFを合わせた8月17〜21日の26.15億ドルの週間流入は、引用された報道によれば2025年10月以来の大きさだった。
23
24
2. ブラックロックは各カテゴリーで大きなシェアを握った
8月24日の1日だけで、IBITはビットコインETFへの流入の約62%、ETHAはイーサETFへの流入の約78%を獲得した。
22
25
運用規模、売買のしやすさ、販売網といった要素が、ブラックロックの商品を機関投資家や大口資金の有力な受け皿にした可能性がある。ただし、これらの数字だけで投資家の属性や個別の投資判断まで特定できるわけではない。
3. ポジティブなフローは、永続的な価格の下支えではない
今回の買い付けは、その期間に強い需要があったことを示す。一方で、ETFの設定・償還メカニズムは逆方向にも働く。投資家の解約が増えれば、ファンドは資産を売却または移管し、同様のウォレット移動が売り圧力と受け止められることもある。
9
Coinbase Primeへの移動だけを見て、「買い」や「売り」と断定することはできない。資金フローやETFの設定・償還の状況と併せて判断する必要がある。
ETHBを含めると約717.9億ドル? 数字には注意が必要
ブラックロックには、ETHAとは別に、ステーキング機能を組み込んだiShares Staked Ethereum Trust ETF(ETHB)もある。ETHAが基本的にイーサの価格連動を提供する商品なのに対し、ETHBは保有するETHの一部をステーキングし、報酬収入を得る可能性を組み込んだ商品だ。
33
43
そのため、一部の報道ではETHBを含むブラックロックのデジタル資産総額を、8月下旬に約717.9億ドルとする数字も出ている。しかし、この金額は、IBITとETHAだけで報じられた684.8億ドルと独立に突き合わせて確認できない。評価日が異なる、ETHBを加えている、あるいは保有商品の定義が異なるといった可能性がある。
2
33
39
比較の基準としては、IBITとETHAに限定した533.6億ドルから684.8億ドルへの増加を使う方が慎重だ。
最終的な見方
ブラックロックの8月下旬の暗号資産買いは、市場反発によって勢いを増したETF設定の波として理解するのが最も妥当だ。27,722BTCと385,633ETHという8日間の移動は、IBITとETHAを通じたBTC・ETH需要の強さを示している。8月21日前後の約48時間で約10億ドル相当が動いたことは、機関投資家向けの資金フローが短期間で加速し得ることも示した。
しかし、現時点の証拠から、ブラックロックが自社の企業資金を使って暗号資産を独自に投機したとは言えない。確認できるのは、投資家がIBITとETHAを購入し、ブラックロック関連ウォレットとCoinbase Primeが、その需要を現物のBTC・ETHの移動へと変換したという構図だ。
この違いは重要だ。今回のデータは機関投資家による暗号資産採用の勢いを示す一方、ETFの仕組みは、資金流入が弱まれば償還を通じて逆回転する可能性もある。