特にデータセンター市場での影響は大きい。高効率なGaNベースの電源装置が評価されるこの分野では、インフィニオンとイノサイエンスはともに、Nvidiaの800V AIラック用電源供給サプライヤーとして承認を受けており、この判決が人工知能(AI)コンピューティングを支えるハードウェアのサプライチェーンを傾ける可能性がある
。
市場を動かしたこの法廷闘争は、1年以上にわたる緻密な多面作戦だった。
訴訟の当事者
原告は、中国の窒化ガリウム・オン・シリコン(GaN-on-silicon)パワーチップのリーディングカンパニーであるイノサイエンス(蘇州)テクノロジー。被告は、ミュンヘンに本社を置く世界的半導体大手で、欧州最大のパワーチップメーカーであるインフィニオン・テクノロジーズ
。
争点となった特許
2025年1月に提起されたイノサイエンスの当初訴訟では、インフィニオンの特定のGaNパワー半導体製品が、GaNデバイス技術に関する同社の中国における中核的な発明特許2件を侵害していると主張された
。この侵害訴訟に先立ち、インフィニオンはこれらの特許の有効性そのものに異議を唱えており、これが重要な行政審判を引き起こすこととなった。
訴訟の経過
販売禁止の対象範囲
最高人民法院の禁止措置は包括的なものだ。インフィニオンは現在、侵害が認定された特定のGaNパワーチップ製品について、中国本土での販売、販売の申し出、輸入が法的に禁止されている
。これは同社の全製品に適用されるものではなく、訴訟で争われた特定の製品ラインに限られる。
中国におけるこの最終判決は衝撃を与えたが、それは深く分裂したグローバルな法的ストーリーの半分に過ぎない。中国の結果とほぼ鏡像のように、米国では中国での最初の判決の約2週間前、2026年5月13日に米国国際貿易委員会(ITC)がインフィニオンに有利な裁定を下していた 。
ITCの本委員会は、イノサイエンスがインフィニオンの特許を侵害した事実を確認し、イノサイエンスのGaN製品に対する米国への輸入・販売差止めを命じた 。ただし、この禁止措置が発効するには、60日間の大統領審査期間を経る必要がある。
結果として生じているのは、ハイリスクな法的矛盾だ。同じ2社がそれぞれの母国市場で互いに相手製品をブロックする判決を勝ち取り、世界のGaN市場を相反する司法管轄区の要塞へと分割したのである。現時点では、イノサイエンスが中国市場の法的制高点を掌握し、インフィニオンが米国市場での優位を保持している。
今回の訴訟劇は、単なる企業間紛争を超えて、国家の産業育成政策や技術覇権争いをも色濃く反映する「特許の陣取り合戦」の様相を呈している。インフィニオンはドレスデンでの50億ユーロ規模の新工場計画を進める一方で、世界最大の半導体市場である中国での販売停止という痛手に対処しなければならない
。
特に中国市場では、パワー半導体が急速に充電器や携帯電話、そして人工知能向けサーバーの電源といった社会インフラに浸透しており、この分野での勝敗は将来の技術標準や市場支配力を決める上で極めて重要な意味を持つ。
イノサイエンスにとって今回の勝利は、単なる訴訟での成功以上の価値がある。それは、同社がグローバルな技術競争において知的財産権の面でも欧州の巨人に伍して戦えることを証明した瞬間だった。一方で、米国市場での敗訴は、同社のグローバル展開に影を落とす。この相反する結果は、先端半導体をめぐる知的財産権の争いが、今後さらに複雑化し、各国の司法判断がサプライチェーンを直接左右する時代の到来を告げている。
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