「人通りの多さ」がすべてではなくなる?
京東(JD.com)の香港での急速な事業拡大は、小売不動産におけるおなじみの前提――最も価値の高い店舗は、最も人通りの多い通りにある――に揺さぶりをかける可能性があります。
同社は過去2年間に香港の店舗、倉庫などの不動産へ100億香港ドル超(約13億米ドル)を投資しました。小売、物流、テクノロジーなど香港の事業全体への投資額は350億香港ドルを超えています。
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重要なのは投資額の大きさだけではありません。京東は、実店舗と商品を保管・発送するフルフィルメント網を組み合わせようとしています。このモデルが定着すれば、物件の価値を測る際に「どれだけ買い物客を呼べるか」だけでなく、「どれだけ速く商品を顧客へ届けられるか」が重視されるようになるかもしれません。
店舗は「販売の場」から配送・受け取り拠点へ
オムニチャネル型の店舗は、来店客に商品を販売するだけの場所ではありません。オンライン注文の商品を受け渡し、返品を受け付け、商品を展示し、周辺地域へのラストワンマイル配送を支える拠点にもなります。
そうなると、立地の採算性も変わります。家賃が比較的安い地域にある店舗でも、商品を受け取りやすく、配送車両がアクセスしやすく、京東のデジタル上の顧客獲得網とつながっていれば、十分な役割を果たせます。売上が、通りすがりの買い物客だけに左右されなくなるためです。
京東が計画する実店舗展開は、このハイブリッド型の考え方を示しています。同社は今後3年間で1,000ブランドと協力し、香港に200店超のオフライン店舗を開く計画を発表しています。また、香港初の家電専門店「JD Mall」は、体験型店舗6〜8店のうちの1店として計画されました。
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物件の評価軸は「歩行者数」から広がる
従来型の繁華街やショッピングモールでは、歩行者数、路面への露出、モールの格付け、視認性が重要な指標です。しかし、オムニチャネル事業者は、次のような要素も重視する可能性があります。
- 配送時間のカバー範囲
- 人口密度の高い住宅地への近さ
- 荷物の積み下ろしや車両の進入のしやすさ
- 収納容量とフロアプレートの効率
- 幹線道路や越境輸送ルートとの接続
- 配送員やフルフィルメント能力の確保しやすさ
これらは、物件を小売サービスの実行力に直接結びつける指標です。買い物客から目立ちにくい物件でも、迅速かつ安定した配送を可能にするなら、事業者にとっての価値は高くなり得ます。
物流拠点に新たなプレミアムか
短時間配送を実現するには、顧客から遠すぎない場所にフルフィルメント能力を置く必要があります。土地が限られる香港では、都市部またはその近郊にあり、荷さばきの効率と交通アクセスに優れた施設は、特に競争力を持つ可能性があります。
京東の香港進出をめぐる報道で引用されたアナリストは、同社がネットワークを構築するなかで、物流ハブなど戦略的な立地の物件が恩恵を受けるとみています。
3 京東による沙田の「Li & Fung Centre」取得は、約18億香港ドルの取引で、香港における同社初の物流不動産プロジェクトと説明されています。
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開発業者にとっては、倉庫を単なる裏方の保管場所ではなく、小売ネットワークの稼働部分として設計する必要が出てきます。荷さばき設備、柔軟な保管スペース、配送車両のアクセスが、物件の商業価値を左右する中心要素になり得ます。
繁華街やモールの賃料には選別的な圧力
もっとも、京東のモデルによって歩行者数が無意味になるわけではありません。高級品、飲食、エンターテインメント、観光客向け商品、実際に見て体験しながら選ぶ買い物は、依然として実店舗の体験や周辺環境に大きく依存します。
圧力を受けやすいのは、オンラインで比較・購入しやすいカテゴリーです。規格化された日用品、家電、家庭用品などでは、オンライン注文と配送によって需要を効率的に獲得できるなら、店舗は歩行者数だけを理由に高い立地プレミアムを支払うことに慎重になるかもしれません。
その結果は、小売不動産市場全体の一様な下落というより、二極化に近い形になる可能性があります。ブランド発信や体験価値が明確な一等地は底堅さを保つ一方、サービス、体験、フルフィルメントのいずれの役割も持たない汎用的な店舗区画は、価値を見直される可能性があります。
京東の動きが不動産市場全体に波及する可能性
店舗と倉庫を統合する京東のモデルが商業的に有効だと分かれば、競合する小売企業やプラットフォームも同様の立地を求めるでしょう。物流、ラストワンマイル配送、ハイブリッド型小売物件にとって、新たなテナント需要が生まれる可能性があります。
開発の優先順位にも影響しそうです。今後は従来の店舗立地に加え、荷さばき能力、保管スペースの柔軟性、配送アクセスを組み込んだ計画が重視されるかもしれません。
京東が香港の北部メトロポリスで物流・複合用途プロジェクトに関与していることは、同社がオンライン小売の枠を越えた役割を目指している例です。ただし、プロジェクトが最終的にどの程度の商業効果を生むかは、まだ不確実です。
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変化は「必然」ではなく、ひとつの試金石
このモデルには実務上の制約もあります。オンライン購入や短時間配送を十分な規模で利用する消費者が増えることに加え、香港特有の土地制約、交通規則、建物仕様が、ラストワンマイル配送のコストを左右します。
したがって、現時点での最も明確な結論は「歩行者数の価値が失われる」ということではありません。京東の進出は、香港の小売不動産市場が今後、2種類の接続性を価格に織り込む必要があるかを試す動きです。
ひとつは、人を呼び込む力。もうひとつは、商品を速く動かす力です。小売事業者によっては、後者が価値を生む場所を決める要因として、ますます重要になる可能性があります。