その後、契約は更新・拡大され、ADNOCの日本での借り上げ能力は8百万バレル超に達したと報じられている。 日本には、沖縄でサウジ・アラムコが原油を保管する仕組みもあり、過去の契約では最大630万バレルの貯蔵が可能だった。九州にはADNOC向けの類似契約も存在した。
保有量を10倍にするなら、日本でサウジアラビアとUAEがそれぞれ約8,000万バレル分のスペースを求めることになる。これは空いているタンクを埋めるだけの話ではなく、新設・転用を含む大規模な物流計画だ。
主な課題は次の通りだ。
サウジアラビアとUAEは、ホルムズ海峡を通らずに原油を輸出できるインフラの整備も進めている。日本の石油業界も、供給源の多様化に加えて、ホルムズ海峡を経由しない原油輸送を可能にする中東のパイプライン事業を重視している。
ただし、迂回ルートは海上輸送のリスクを消すものではない。サウジ産原油を紅海側へ運んでも、アジアや欧州へ届けるにはバブ・エル・マンデブ海峡を通過する場合がある。UAEのフジャイラ港を利用するルートも、港湾能力やオマーン湾以遠の航行安全に左右される。
つまり、タンク、パイプライン、代替ターミナルはそれぞれが「多層的な備え」として機能する。しかし、湾岸からの輸出を現在の規模で支えるには、どれか一つだけでホルムズ海峡を置き換えることはできない。
米国による対イラン制裁の強化は、アジアの買い手がイラン産以外の原油を確保する動機も強める。米財務省は、中国の独立系製油所である恒力石化(Hengli Petrochemical)の大連製油所と、イランの石油取引に関係する約40の船会社・船舶を制裁対象にした。
ドナルド・トランプ大統領とスコット・ベッセント財務長官は、さらに「前例のない」措置を取る可能性を示している。ただし、追加の中国系製油所や銀行が対象になるかを含め、最終的な範囲は現時点の報道では確定していない。
制裁がイランの原油販売、輸送、決済をさらに制限すれば、イランは外貨収入を失う一方、紛争によって輸送費や消費者向けコストが上昇する。インフレや物不足が深刻化し、燃料需要の抑制や配給に追い込まれるリスクも高まる。ただし、全国規模のエネルギー配給がすでに実施されたと断定できる根拠はなく、現段階ではリスクとして捉えるべきだ。
制裁は、サウジアラビア、UAE、日本、韓国にとって供給の確実性を高める理由になる一方、貯蔵原油の所有者、決済経路、保険会社、船舶、最終的な販売先への監視を強め、備蓄契約の運用を複雑にする可能性もある。
海外備蓄、代替調達、迂回パイプライン、戦略備蓄は、ホルムズ海峡の混乱が経済に与える期間と打撃を抑えられる。しかし、海峡が長期間閉鎖された場合に失われる輸送量を、短期間で完全に埋めることはできない。危機下では、対策後も世界の原油フローが日量約1,100万バレル減少したとの推計がある。
その意味で、日本と韓国での備蓄拡大協議は、たとえ報じられた規模で実現しなくても重要だ。ホルムズ海峡を一時的な航行リスクではなく、恒常的なサプライチェーンの脆弱性として扱う方向への転換を示しているからだ。
現実的な対応は、アジアの製油所に近い貯蔵能力、パイプラインとターミナル、原油調達先、緊急放出のルール、そして石油需要を減らす取り組みを組み合わせることになる。いずれも整備には時間と費用、国際協調が必要だ。ホルムズ海峡、紅海、保険市場、制裁順守、アジアの製油所在庫が同時に逼迫すれば、単一の備蓄拠点だけでは十分な防波堤にはならない。