中国の主要ネット企業は、AIを画面の中だけで完結させず、倉庫、配送網、道路、空域へと広げている。自動倉庫で商品を動かし、ドローンや無人配送車で注文を運び、ロボタクシーを運行し、さらにそれらを動かすモデルや半導体も開発する――焦点は、アプリ単体から、需要・データ・AI・ハードウェア連携・実地運用を束ねる総合的な仕組みへ移りつつある。
特に進展が見えやすいのは物流とモビリティだ。作業の反復回数が多く、成果を測定しやすいためである。どこでも人の代わりに働ける汎用ヒューマノイドをいきなり実現するよりも、商用化への現実的な入口になっている。
本当の製品は「物理的な仕事のOS」
ロボットや自動運転車は、システムの一部にすぎない。商用サービスとして動かすには、配車・配送管理ソフト、地図や経路、充電・積み込み設備、遠隔監視、安全管理、店舗や倉庫、そして例外対応を担う人が必要になる。
消費者向けサービスやECの大手に強みがあるのは、この点だ。高頻度の取引ネットワークをすでに運営しており、自社が管理する業務フローに自動化を組み込める。実地で繰り返し使うほど、失敗、遅延、経路上の傾向、想定外のケースといった運用データがたまり、次の改善に生かせる。
このビジネスで顧客が買うのは、必ずしもロボット本体ではない。配送能力、倉庫の処理量、車両フリートの稼働率といった、管理されたサービスそのものになる可能性が高い。
Meituan:地域配送を区間ごとに自動化
Meituanの出発点は、飲食や日用品などの即時配送だ。同社のドローン事業は、機体単体ではなく、中継拠点と運航管理システムを組み合わせる構想を取る。2026年5月には、自社で整備したドローン配送インフラが商用運用に入ったとし、認定パートナーに低空物流ソリューションを開放すると発表した。
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重要なのは機体性能だけではない。規制面の前進も事業拡大を左右する。Meituanは2025年4月、第4世代ドローンが中国民用航空局の審査を通過し、低空物流向けの全国運航証明を取得したと発表した。
61 さらに同年3月には、香港で商用ドローン配送を開始。これは同社にとって54番目の商用路線だとしている。
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もっとも、実際の運用は選択的だ。自律システムが予測しやすい区間を担い、人が受け渡しや複雑な「最後の数十〜数百メートル」を担う。北京市順義区では、無人配送車が荷物を中継拠点まで運び、そこから配達員が最終区間を届ける方式を採用している。
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配送需要が密集する地域では自動化の価値が大きい一方、建物への入館、天候、歩行者が混在する環境、顧客への受け渡しは依然として難題である。
JD.com:サプライチェーンをロボット展開網に変える
JD.comの出発点は物流インフラだ。在庫、倉庫作業、ピッキング、仕分け、輸送、配送を一つの連携システムとしてつなげられる点に機会がある。
JD Logisticsによると、2025年12月31日時点で、自社開発の「LangzuTech」商品搬送型(Goods-to-Person)自動倉庫は中国の約20都市で20カ所超が稼働していた。同社は、この仕組みにより数百万SKUに対応する高密度保管と高速ピッキングを実現し、大型セール期にも安定稼働を支えたとしている。
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これは単なる社内効率化ではない。標準化された倉庫システムは複数拠点へ複製でき、フルフィルメントやサプライチェーン管理サービスと組み合わせて外部へ提供できる可能性がある。JD.comは、スマート物流と無人技術を社内で研究・開発・活用する重点領域としても公表している。
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小売業者やブランドにとってのポイントは明確だ。倉庫ロボットは、床に1台置くだけでは力を発揮しにくい。在庫配置、受注管理、出荷業務と結び付いたときに初めて有用性が高まる。
ByteDance:具身AIの「頭脳」層を狙う
ByteDanceの物理AI戦略は、よりモデル中心だ。研究組織のSeedは、汎化性能と長期的なタスクを目指す汎用の視覚・言語・行動(VLA)ロボットモデル「GR-3」を発表した。また、物体操作向けの両腕型モバイルロボットプラットフォーム「ByteMini」も提示している。
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具身AIでは、対象を見て認識するだけでは足りない。見たもの・理解したことを、安全かつ確実に物体を扱う行動へつなげなければならない。ByteDanceの取り組みは、ロボットの方策モデル、マニピュレーション研究、モデル学習、開発者向けAI基盤という、ロボティクスを支える層を志向するものといえる。
人材面でも動きがある。2025年の報道では、同社がヒューマノイド開発に特化した職種を含め、シニア級の具身知能専門家の採用を進めていると伝えられた。
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ByteDanceがあらゆるロボットを自社製造する必要はない。産業用ロボット、協働ロボット、サービスロボットのパートナーに対し、「頭脳」の一部を供給するだけでも大きな価値を持ちうる。
Baidu:ロボタクシー、自動運転ソフト、AI半導体
Baiduの物理AI戦略が最も見えやすいのは自動運転だ。Apolloは無人車両に必要なソフトウェアとデータの仕組みを束ね、Kunlun半導体はAI処理を支える計算基盤となる。
Apollo DayでBaiduは、第2世代Kunlun AIチップが自動運転向けのエンドツーエンド性能適応を完了したと説明した。加えて、自動運転の認識モデル、高精度地図、走行データのクローズドループシステムも紹介している。
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AIハードウェアのロードマップも示している。Kunlun M100は2026年に大規模推論向けとして投入予定で、M300は超大規模マルチモーダルモデルの学習・推論向けとして2027年に投入予定とされた。
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戦略的な意味は、AIモデルと計算資源を、自動運転ソフトとフリート運営に結び付ける垂直統合にある。ただしロボタクシーは厳しい実証の場でもある。商用展開には、モデルやチップの性能だけでなく、安全性、車両メーカーとの連携、地域ごとの許認可、継続的に成り立つ運用経済性が求められる。
Alibaba、Tencentと産業パートナーへの示唆
AlibabaとTencentも、クラウド基盤、企業向けソフトウェア、商取引ネットワーク、シミュレーション、資本、提携といった物理AIスタックの異なる層で重要になりうる。ただし、今回の根拠資料では、具体的な現行導入についてはMeituan、JD.com、ByteDance、Baiduの4社の方がより明確である。
従来産業にとって、この変化は提携の条件を変える。
- 小売・物流事業者:自動化は、配車、在庫、荷さばき場、入退館管理、人による例外対応と連携しなければならない。
- 製造業:部品、信頼性、システム統合、保守サービスは引き続き不可欠だ。一方で、プラットフォーム企業はAIソフトや運用標準の有力な供給者になりうる。
- 自動車メーカー:従来の車両開発力に加え、自動運転、地図、計算資源、フリート管理のパートナーが重要になる。
- ロボット企業:ハードウェアの改善だけでなく、実導入の現場と運用データへのアクセスを確保することが競争力を左右しうる。
中国の優位性と、この見立ての限界
中国の潜在的な強みは、どこか1社が最高性能のモデルを持つことだけではない。大規模なEC・配送ネットワーク、厚い製造能力、同じ市場内での迅速な運用学習を組み合わせられる可能性にある。
Meituanの規制対応済みドローン路線、JD.comの反復可能な自動倉庫展開、ByteDanceの具身AI研究、Baiduの自動運転・半導体スタックは、その学習ループをつくる異なる手法を示している。いずれもAI開発を、性能を実地で検証し改善できる環境に結び付ける。
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ただし、物理AIはデジタルソフトウェアほど失敗を許容しない。配送ミス、車両の誤作動、倉庫の停止は、安全、責任、サービス品質に直結する。大規模な実証実験が、そのまま持続的な収益性、広範な自律性、あるいは人手の全面代替を意味するわけではない。
短期的に最も現実味があるのは、倉庫、固定的な配送回廊、定義の明確な産業作業、管理されたフリートといった制約のある環境での狙いを定めた自動化だ。長期的な競争は、モデル、半導体、機械、運用、そして現実世界へ信頼を得て導入する力を、誰が最もうまく結合できるかにかかっている。