HBMは標準的なDDR5と比較して、1ギガバイトあたり約3倍のウェハー(シリコン基板)容量を消費する。つまり、AIインフラに1枚のウェハーを割けば、その分だけコンシューマー向けDRAMの供給が減るという構造的なトレードオフが発生している。
その結果、DDR4とDDR5の価格は四半期ごとに約80~90%も高騰し、標準メモリーは割り当て(アロケーション)対象となった。サムスン自身も、「メモリーチップ不足は2026年にエレクトロニクス業界全体に広範な価格上昇をもたらす」と警告している。ビッグ3はエヌビディア、グーグル、アマゾンといったAIの巨人を優先し、PCメーカーは調達に苦慮している。
HP、ASUS、Acerの3社は2026年半ばに認証手続きを完了し、CXMTのDRAMチップを限定的なノートPCに採用した。その条件は徹底的に慎重だ。使用数量は極めて少なく、エントリーモデルのみに限定され、販売は米国以外の市場に限定されている。HPとデルはそれ以前から、予防的にCXMTのDRAM認証を進めていた。一方、ASUSとAcerは中国の受託製造パートナーに対して、中国製メモリーチップの現地調達を依頼している。
ASUSは2025年後半に、約2カ月分のメモリー在庫を抱えており、2026年には不足の影響を実感し、価格調整が必要になる可能性があると表明していた。Acerは、従来のビッグ3以外の「複数の中小規模ベンダー」を探索していることを発表している。
CXMTは「中立な調達先」ではない。同社は米国防総省の「第1260H条(セクション1260H)中国軍事企業リスト」に掲載されており、国防総省との契約は制限されるものの、米国企業による商業購入そのものを直ちに禁止するものではない。しかし、レピュテーションリスクと規制リスクは計り知れない。
OEM各社が最も恐れているのは、CXMTが米国商務省の「エンティティ・リスト(Entity List)」に追加されることだ。これは中国のNANDフラッシュメーカーであるYMTC(長江存儲)がすでに指定されている、はるかに厳しい制裁措置である。アップルはCXMTへの本格的な発注に先立ち、同社がエンティティ・リストに追加されないという確約を求めていると報じられている。もし追加されれば、CXMTと取引するすべての米国企業(または米国技術を使用する企業)に対して厳格な輸出ライセンス障壁が課されることになる。
米国の輸出規制により、CXMTはASMLなどのサプライヤーからの先端リソグラフィー装置を入手できず、最先端DRAMの生産能力を制限され、HBM市場には完全に参入できない状態にある。同社の生産能力拡大も停滞しており、アナリストは既存の輸出規制下では新規容量の追加は限定的だと予測している。
地政学を抜きにしても、CXMTが既存のビッグ3に追いつくにはまだ長い道のりがある。同社はDDR5チップの量産開始を2025年後半まで延期した。初期サンプルは、コンパクトなシステムでは一般的な動作温度である約60℃で安定性の問題を示したとされる。そのG4製造技術の最小線幅は約16nmで、サムスンやSKハイニックスと比較して約2世代分遅れている。
そして何より重要なのは、CXMTがHBMをまったく製造できないという点だ。AIワークロードで最も需要が逼迫しているメモリータイプそのものである。米国の輸出規制により、HBMに必要な先端装置へのアクセスが遮断されているからだ。これにより、CXMTはメモリー市場で最も収益性が高く、急成長しているセグメントから締め出されている。同社の全体的な生産量は、ビッグ3の生産能力のごく一部にとどまる。
こうした品質と性能の限界こそが、HP、ASUS、AcerがCXMTのチップを低価格帯の非米国向けモデルに限定している理由である。CXMTのチップは旗艦製品の基盤ではなく、あくまでつなぎの部品なのだ。
CXMTは、価格が倍騰した安価な標準DRAM市場において、短期的な圧力逃しのバルブを提供する。しかし、その地政学的な露呈リスク、HBMを製造できない技術的制約、そして限定的な生産規模は、CXMTをサムスン、SKハイニックス、マイクロンの代替品にはできない。PCメーカーがCXMTに頼らざるを得ないのは、他に即座に選べる選択肢がないからだ。これが一時的な回避策で終わるのか、それともより断片化されたメモリーサプライチェーンの始まりとなるのか。その答えは、各社の役員室ではなく、ワシントンで下される決断にかかっている。