特にアフリカは、巨大な電力需要という未開拓市場としての魅力に加え、UAEとサウジアラビアを中心に2024年末までに累計1019億ドル(約15兆円)もの資金が投じられてきた実績があり、最優先地域であり続けている 。
国際的な「グリーン投資」の野望が加速する一方で、国内の再エネ導入計画はより複雑な様相を呈している。海外投資を急がせているのと同じ紛争が、皮肉にも湾岸諸国自身の風力・太陽光発電の導入拡大を妨げているのだ。
ノルウェーの調査会社リスタッド・エナジーによれば、中東紛争は地域で進行中の再生可能エネルギープロジェクトに3カ月から12カ月の遅延をもたらしている 。その主因は物流の混乱だ。本来ホルムズ海峡を通過するはずの機材が滞留し、輸送コストは高騰、保険料も跳ね上がっている
。ある業界調査では、請負業者の3分の1以上が「輸送・物流の遅延」を紛争起因の最大の課題として挙げている
。
資材コストも急騰している。再生可能エネルギー関連のサプライチェーンで重要な原料である硫黄は、紛争勃発以降、価格が70%以上も上昇した。世界の海上輸送硫黄の約半分がホルムズ海峡を通過するという構造的な脆弱性が露呈した格好だ 。
さらに深刻なのが「資本の転用」問題だ。リスタッド・エナジーは、中東全域のエネルギー関連インフラの修復費用が最大580億ドル(約8兆7000億円)に達し、湾岸諸国の石油・ガス施設だけで最大500億ドル(約7兆5000億円)を占めると試算している 。リスタッドのシニアアナリストは「修復作業は新たな生産能力を生み出すわけではない。既存の生産能力を転用するだけだ。そのしわ寄せは、中東をはるかに超えたプロジェクトの遅延やインフレとして感じられるだろう」と警鐘を鳴らす
。本来なら新たなメガソーラー発電所に投じられたはずの国家予算が、損傷した製油所やパイプライン、淡水化プラントの修復に向かっているのである。
それでも、進行中の建設現場の大半(約6,700件、総額約9,510億ドル相当)は通常通り稼働を続けており、全面的な停滞ではない 。しかし、この混乱は現実のものであり、各国の「選択と集中」を厳しく迫っている。
今回の戦争は、湾岸諸国が国内で再生可能エネルギーを普及させる際の障壁を生み出したわけではない。これは「前からあった問題」を極度に悪化させたに過ぎない。危機以前から、GCC諸国は断片的な規制の枠組み、電気料金を歪める高額な化石燃料補助金、再エネ専門の規制当局の不在、そして厳格に管理された電力市場といった構造的な課題を抱えていた 。カーネギー国際平和基金は、極度の暑さや砂塵、水不足といった乾燥・半乾燥気候に起因する「自然の限界」がクリーンエネルギー導入の技術的難易度とコストを押し上げていたと指摘する
。
戦争が始まる前の野心的な目標とのギャップは、その困難さを物語っている。GCC諸国は2025年半ばまでに約6210万キロワット(62.1GW)相当の再エネ開発に425億ドル以上を投じたが、実際に送電網に接続されたのはわずか1930万キロワット(19.3GW)にとどまっていた 。戦争は、政治的な関心と資金、そして時間を目の前の安全保障と炭化水素収入の安定化へと向かわせることで、このギャップをさらに拡大させている。
目先の混乱は、より深い構造変化を覆い隠している。複数の分析が一致して指摘するのは、ホルムズ危機が湾岸諸国にとってエネルギー転換の緊急性を「低下させる」どころか、「むしろ高めた」という点だ。サウジアラビアやオマーン、UAEは太陽光や風力発電を環境対策の「サブプロジェクト」として扱うのではなく、国家の中核的なエネルギー安全保障計画に組み込み始めている 。
経済的な理屈も変わりつつある。再生可能エネルギーはもはや「気候変動対策」ではなく、輸出のチョークポイントへの依存を減らす「国産のエネルギー供給源」として捉え直されている。シンガポールのビジネス・タイムズ紙の分析によれば、今回の危機は「再エネを国内供給源として再定義し、システムの柔軟性と強靱性を政策の優先課題とし、電化の経済性を加速させることで、再エネ導入の論理を先鋭化させた」という 。
特にサウジアラビアのような、中国国外では世界的に最も低コストで太陽光・風力発電を導入できる市場では、たとえスケジュールがずれ込んでも長期的な経済合理性は揺るがない 。S&Pグローバルは調査レポートで、プロジェクトの順序や資本配分の方法は「紛争がどれだけ長引くかによって変わる可能性がある」としつつも、「地政学的な逆風にもかかわらず、プロジェクトは依然として前進している」と強調した
。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、2026年の世界のエネルギー投資は過去最高の3.4兆ドルに達し、そのうち2.2兆ドルがクリーンエネルギー技術に投じられる見通しだ 。歴史的に世界の化石燃料の「エンジンルーム」だった湾岸諸国も、この巨大な資本再配分の参加者となっている。ホルムズ危機は、もはやこの転換を「気候変動」や「経済多角化」の問題ではなく、「生存」の問題へと変えた。幅わずか34マイルの海峡を通じてエネルギーを輸出することで富を築いてきた国々が、より危険に満ちた世界で繁栄するためには、未来を太陽と風、そして海外資産につながなければならないという結論に至りつつあるのだ。
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