Googleが次世代TPUでTSMCへの発注をより直接化する――そんな観測を「MediaTekが外される」と短絡すると、論点を見誤る。現時点の公開情報から読み取れる中心は、設計パートナーの交代というより、先端プロセス、CoWoS(TSMCの先端パッケージング)、量産日程、コスト構造を誰が管理するかという問題だ。報道では、MediaTekはなおI/O Die、ウェハ調達、後工程パッケージ統合などを担うとされている[2][
10]。
まず確認:「MediaTekを完全に迂回」は未確認
この件は、Google、TSMC、MediaTekが正式に細部を発表した話ではない。台湾メディアの商業周刊はGoogle TPUとMediaTekのプロジェクトを報じる一方、MediaTekはコメントを控え、TSMCも個別顧客の業務詳細にはコメントしないとした[6]。
したがって、現時点で「GoogleがMediaTekを完全に外す」と断定するのは早い。より慎重に言えば、Googleが将来、ウェハやCoWoSの枠取りをTSMCとより直接調整する場合、変わるのは調達、パッケージ、スケジュール管理の主導権であり、MediaTekのI/O、SerDes、品質確認、工程支援まで一気に消えるとは限らない。
現在の分担:Googleが中核設計、MediaTekはI/Oと製造調整
TechNewsによると、GoogleとMediaTekのTPU協業では、Googleが演算用のCompute Die設計とHBM(高帯域幅メモリー)の調達を担い、MediaTekがI/O Die設計、全ウェハ調達、後工程パッケージ統合を担当する[2]。
InsideはThe Informationの報道として、次期TPUの大部分は引き続きGoogleが設計し、MediaTekはTPUと関連部品をつなぐ通信入出力の設計、量産品質の確認、TSMCへの発注を担うと伝えている[10]。
ここが重要だ。MediaTekは単なる「中間商社」ではない一方、Google TPU全体の主設計者でもない。I/O、製造調整、後工程統合の重要な協力先という位置づけに近い。だからこそ、GoogleがTSMCとの発注経路を見直すとしても、それは技術協業の全面終了ではなく、役割の切り分けである可能性が高い。
なぜ焦点はTSMCなのか:CoWoSがTPU増産の入場券になる
TPUはGoogleがAI計算向けに開発するカスタムチップで、ASICの一種とされる[2]。ただしAI ASICの競争は、設計だけでは決まらない。十分な先端プロセスと先端パッケージング能力を確保できるかが、量産のボトルネックになる。
壹蘋新聞網は外部報道を引用し、Googleがデュアルサプライヤー戦略を取ることで、MediaTekとBroadcomの双方を通じてTSMCのCoWoS能力を確保し、TPU v7eの量産を加速できると伝えた[8]。商業周刊も、MediaTekがGoogle v7e/v8e向けにTSMCの先端プロセスとCoWoS能力を追加確保していると報じ、2027年にTSMCがMediaTekのGoogle案件へ提供するCoWoS能力は7倍超に増えるとの見方を伝えている[
6]。
時間の制約も大きい。商業周刊によれば、ウェハ投入からCoWoSパッケージングとテスト完了までには約8〜9カ月かかり、需要が逼迫するなかで、認証が順調ならv7eのリスク試作分を量産品同様に供給する可能性もある[6]。ボトルネックがTSMCのパッケージングとスケジュールに集中するなら、Googleがその状況をより直接把握したいと考えるのは自然だ。
GoogleがTSMCとの関係を直接化したい4つの理由
1. 希少なCoWoS能力を押さえるため
複数の報道は、Google TPUの増産とTSMCのCoWoS能力を結びつけている[6][
8]。TPU v7e/v8eの需要が急増するなら、Googleがウェハ投入やパッケージング日程をより直接見たいと考えるのは合理的だ。調整階層が少なくなれば、能力の見通しを立てやすくなる。
2. コストを下げたいが、「直接発注なら必ず安い」とは言えない
InsideはThe Informationの報道として、GoogleがMediaTekとより低コストのTPUを作る計画を持ち、その理由の一部はMediaTekの提示価格がBroadcomより低いことにあると伝えた[10]。つまりGoogleがTPU供給モデルのコスト低減を意識しているのは確かだ。
ただし、GoogleがTSMCへ直接発注すれば必ず安くなる、と公開情報だけで証明することはできない。実際のコストは、契約条件、能力確保のコミットメント、CoWoS構成、テストや認証の責任分担で変わる。より正確には、GoogleがTSMCに近づくことで中間調整や交渉階層を減らせる可能性がある、という程度に見るべきだ。
3. 量産判断の鎖を短くするため
現在の報道上の分担では、MediaTekはウェハ調達と後工程パッケージ統合を担い[2]、さらに品質確認とTSMCへの発注役も担うとされる[
10]。これは設計支援だけでなく、製造調整機能もMediaTek側にあることを意味する。
Googleがウェハ投入、CoWoS、テスト、認証の節目をよりリアルタイムに握りたいなら、TSMCとの発注・スケジュール調整に直接関与する方向は十分あり得る。それはMediaTek排除ではなく、「誰が発注と能力調整を担うか」と「誰がI/Oや工程支援を担うか」を分ける動きとも読める。
4. 単一ASICパートナーへの依存を減らすため
GoogleがMediaTekを取り込んだこと自体、市場では供給リスク分散として見られてきた。壹蘋新聞網は、GoogleがTPU関連アーキテクチャで過去にBroadcomへ大きく依存しており、Second Sourceを探す狙いは、コスト、供給、技術ペースが単一パートナーに左右されるリスクを下げることだと伝えている[8]。Insideも、GoogleがMediaTekに向かうとしてもBroadcomとの関係は維持され、TPU注文を両社で分け合う可能性があると報じた[
10]。
もしGoogleがTSMCとの直接関係をさらに強めるなら、それも同じ流れにある。設計サービス、I/O、後工程統合、能力配分を一社に完全に縛られないようにする動きだ。
MediaTekにとっては「退場」より「役割再配分」
公開情報を見る限り、MediaTekがGoogle TPU供給網から直ちに消えるというより、役割が再配分される可能性の方が高い。TechNewsは、MediaTekがGoogle第8世代TPU(TPUv8x)設計に切り込み、2026年第4四半期から売上貢献が始まる見通しだと報じた。また、後続プロジェクトの売上が2028年から貢献するとの会社側発言について、市場ではTPUv8eに関係する可能性があると受け止められている[2]。
同報道は、MediaTekがBroadcomからGoogle案件を取れた鍵の一つとして、10年以上開発してきたSerDes IP技術を挙げている[2]。つまりMediaTekの価値は、単にTSMCへ発注する窓口であることだけではない。
そのため、GoogleがTSMCとの発注関係を直接化する場合に考えられるのは、次のような構図だ。
- Googleがウェハ、CoWoS、納期の管理権をより多く取り戻す。
- MediaTekはI/O Die、SerDes、品質確認、後工程統合の一部を引き続き担う可能性がある[
2][
10]。
- TSMCのCoWoS能力配分が、Google TPU供給網の最重要変数になる[
6][
8]。
「TSMCに直接つなぐ」と「MediaTekが関与し続ける」は、同時に成立し得る。前者は製造資源のコントロールの話であり、後者はI/O、設計支援、工程ノウハウの話だからだ。
これから見るべき3つのサイン
第一に、CoWoS能力が誰に、どれだけ割り当てられるか。商業周刊は、2027年にTSMCがMediaTekのGoogle案件へ提供するCoWoS能力が7倍超に増えるとの見方を報じており、この数字はTPUの増産速度に直結する[6]。
第二に、v7eのリスク試作と認証の進み具合だ。商業周刊は、MediaTekが手がけるGoogle向けv7eが2026年第1四半期末にリスク試作へ入る見通しで、試作分を量産供給として扱えるかは認証次第だと報じている[6]。
第三に、MediaTekの役割が「ウェハ調達・パッケージ統合」から、より「I/O、SerDes、品質確認、工程支援」寄りに移るかどうか。TechNewsとInsideはいずれも、MediaTekをI/O、製造調整、品質関連の役割に置いており、Google TPUから完全撤退する存在としては描いていない[2][
10]。
結論:これは単純なサプライヤー交代ではない
Googleが次世代TPUでTSMCへの発注をより直接化するとすれば、核心は能力、コスト、速度、供給網のコントロールにある。MediaTekの技術力不足や即時失注を意味すると見るのは、現時点では踏み込みすぎだ。報道上、MediaTekはGoogle TPUのI/O、ウェハ調達、後工程統合、後続世代プロジェクトでなお重要な位置にいる[2][
6][
10]。
Google、TSMC、MediaTekからより明確な説明が出るまでは、最も無理のない見方はこうだ。GoogleはTPU供給網をより直接的かつ多元的にしようとしている。MediaTekのリスクは「すぐに外れる」ことではなく、将来、ウェハ、CoWoS、スケジュール管理の主導権がGoogle側に再配分されることにある。




