その基盤となるのがSAP Business AI Platformで、以下の技術レイヤーを統合している。
これらを一体化することで、AIエージェントが企業データや業務プロセスにアクセスしながら、安全に業務を実行できる環境を提供する。
SAPはさらにパートナーエコシステムも拡大しており、AI導入を加速させるためのパートナーファンドなどの施策も進めている。
この戦略の“入り口”になるのが、AIアシスタントのJouleだ。
SAPはJouleを、企業システムとユーザーをつなぐ**「フロントドア」**として位置付けている。従来のERPのように複数の画面を操作する代わりに、ユーザーは自然言語で次のような操作を行える。
さらにJoule Studio 2.0では、企業やパートナーが自社専用のAIエージェントを構築できる。これらはSAPのデータやワークフローと直接連携し、例えば次の領域で利用される。
SAPは、こうしたAIエージェントが企業データとガバナンスの枠組みの中で動作するため、一般的なAIツールより信頼性の高い結果を出せると主張している。
SAPのAI戦略の最大のポイントは、AIを単なる追加機能として提供するのではなく、企業データと業務プロセスの中心に組み込むことだ。
企業のERPには、購買データ、請求書、在庫情報、人事データなど、AIが業務を自動化するために必要な構造化データが大量に存在する。
そのためSAPは、ERP内部にAIエージェントを配置することで、自社プラットフォームを企業AIのコントロールレイヤーにしようとしている。
2026年初めの決算では、SAPのクラウド事業が引き続き拡大していることも確認された。
2026年第1四半期には次のような結果が報告されている。
別の分析では、クラウド売上成長率が約27%、バックログ成長が**約25%**と報告されるなど、企業のクラウド移行が進んでいることが示された。
この点は重要だ。SAPの新しいAI機能の多くはクラウド環境での利用を前提としており、顧客がクラウドへ移行するほどAI戦略も実行しやすくなるためだ。
ただし、株式市場はまだこのAIストーリーを全面的には評価していない。
背景の一つは、2026年の業績見通しが市場期待を下回ったことだ。SAPが第4四半期決算と同時に発表したガイダンスがアナリスト予想に届かず、株価は1日で14%以上下落した。
投資家が気にしているのは、AIが実際に次のような成果につながるかどうかだ。
製品発表だけではなく、財務指標として成果が見えるかどうかが重要視されている。
SAPの株価動向は、企業固有の要因だけでなく欧州ソフトウェア市場全体の環境にも影響されている。
2026年前半には、AIが既存ソフトウェアビジネスを破壊する可能性への懸念から、欧州のソフトウェア株は大きく下落した。
市場がやや回復した局面でも、SAP株はAI戦略を発表した後も大きく上昇しておらず、投資家の慎重姿勢が続いていると指摘されている。
現在の市場の見方は、おおむね次のように整理できる。
つまり、Autonomous EnterpriseはSAPの将来を大きく変える可能性を持つが、投資家は**「ストーリー」よりも「数字」**でその成果が確認されるのを待っている段階だ。